「お客さまは保護者さま」意識が教師を追い詰める。高所得地域の学校で“教師の自腹”が増える理由

なぜ公立学校の教師は自腹を切るのか。調査で明らかになったのは、教育への熱意や使命感といった善意が、皮肉にも自腹を促進している実態だ。その複雑なメカニズムを見ていこう。(画像出典:PIXTA)

「保護者が喜ぶことをしたい」という思いが生む自腹

さらには、「保護者が喜ぶことをしたい」という考え方をもっている教員ほど部活動に関わる自腹を行っている傾向がある。

「保護者が喜ぶことをしたい」と思っている教員の49.0%(259人中127人)が部活動に関わる自腹がある一方で、思っていない教員の場合は自腹ああったのは36.9%(103人中38人)だった。

部活動に関わる自腹が、教員本人が使う衣類や道具だけではなく、練習試合や大会などに伴う交通費や宿泊費、子どもたちにふるまう飲食費なども含んでいるという事実から考えると、自腹をしてでも部の活動を実施し、ときには子どもたちにも還元することで、喜ぶ保護者がいる、という背景もありそうだ。

ここでは、教員が自主的に、もしくは教員が受動的に自腹を切る状況を、部活動に関しては保護者が一定の支持をしている可能性が浮上してくる。

先の「経済的に豊かな家庭が多い」に「あてはまる」と回答する教員ほど部活動に関する自腹をしている、ということと合わせると、経済的に豊かな家庭の多い地域の中学校では、活発な部活動をしてくれる部活動の顧問が喜ばれ、そうしたことを肯定的に捉える教員が、部活動に関わる自腹をしているのだろう。やはり、この2点は部活動に関わる自腹を促進しているといえるのではないか。

これらのデータが示すのは、教師の自腹が単なる個人の判断ではないということだ。教育への熱意、子どもたちへの思い、職場での協調性──本来であれば教育現場で最も大切にされるべき価値観が、皮肉にも教師の経済的負担を増大させている構造が浮き彫りになっている。
教師の自腹
教師の自腹
なお、書籍『教師の自腹』では、今回紹介した教師の意識分析の他にも、自腹の具体的な金額や、問題解決に向けた政策提言なども詳しく取り上げられている。より詳しく知りたい方は、ぜひ書籍もご覧いただきたい。
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【この書籍の執筆者】※肩書は本書執筆当時
福嶋尚子 プロフィール
千葉工業大学工学部教育センター准教授/「隠れ教育費」研究室チーフアナリスト。新潟大学教育人間科学部(当時)で教育行政学、教育法学、教育政策学を学び、修士課程を経て、2011年東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。2015年度より千葉工業大学にて教職課程に助教として勤務し、2021年より准教授(現職)、教育行政学を担当。

栁澤靖明 プロフィール
埼玉県川口市立青木中学校事務主幹/「隠れ教育費」研究室チーフディレクター。県内の小・中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・就学支援制度。

古殿真大 プロフィール
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程院生/日本学術振興会特別研究員(DC2)。筑波大学人間学群教育学類で教育社会学を学び、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士課程に進学。専門は教育社会学、障害児教育。教育に医療の知識がもち込まれることに関心を寄せ、とりわけ情緒障害に着目し、歴史的な観点から研究をしている。
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