
メディアに公開された大統領執務室での首脳会談では、両首脳とアメリカのJ.D.ヴァンス副大統領が激しく口論を繰り広げる予想外の展開を見せた。その様子は世界中に報じられ、大きなニュースになった。
「あなたは第三次世界大戦につながる事態で、ギャンブルをしている」
筆者は同日ワシントンに取材で滞在しており、会談が行われていた時間はホワイトハウス近くで第一次トランプ政権の関係者に会っているところだった。首脳会談のやりとりの中で筆者が気になったのが、トランプ氏がゼレンスキー氏に「あなたは第三次世界大戦につながる事態で、ギャンブルをしている」と強く指摘する場面だ。案の定、この会談後から、SNSなどでは「第三次世界大戦」という言葉が話題になった。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻が、世界を巻き込んだ物騒な第三次大戦を引き起こすリスクがあるというトランプ氏の発言に対して多くの人々が敏感に反応したようだ。
ただ本当に第三次大戦が起きる可能性はあったのか。また、これから勃発する可能性はあるのだろうか。今回は、トランプ政権の方針やウクライナの状況などを踏まえて、考察してみたい。
首脳会談は、トランプ氏にとって“いいショーになった”のか
今回問題になった会談ではトランプ氏はどのような危険があると語っているのか。トランプ氏の主張は、もともとウクライナはロシアに対抗できる見込みは全くない、というもの。かつ、いろんな国を巻き込んでおり、その中でもアメリカはウクライナに「3500億ドル(約52兆円)」という巨額な支援金を送っているにもかかわらず、“感謝”が足りないゼレンスキー氏に対し「その態度を変える必要がある」と告げた。その流れで、第三次世界大戦が起きても仕方がない状況にあると述べたのである。両者の激しいやりとりの様子が伝わると、前出の元政府関係者は「今日、ウクライナで鉱物を開発する合意をして発表するという話になっていたが、ゼレンスキーが予想外に反発して紛糾したということだ。ただ最後にトランプが『これは素晴らしいテレビのネタになるな』と言ったように、これもトランプにとってはいいショーになったということだろう」と話していた。
印象的だったのは、共同記者会見をしないままゼレンスキー氏が退席したため、「同氏がホワイトハウスを出る姿をカメラに収められなかった」と、今回の出張で会ったメディア関係者が嘆いていたことである。要は、関係者もメディアも予想外の結末になったというわけだ。
ゼレンスキー氏「悔やまれる」
この会談後、ゼレンスキー氏はすぐにイギリスへ飛び、欧州からウクライナの安全を保障してもらえるよう話を進め、ロンドンでヨーロッパなど15カ国の首脳らが結束して停戦後にウクライナを支える約束を取り付けている。さらにアメリカにも改めて「侘び」の連絡をし、再び鉱物の協定について話をさせてほしいと求めている。その上で、ゼレンスキーは3月5日、X(旧Twitter)に声明を投稿。ホワイトハウスでトランプ氏らと口論になってしまったことは「悔やまれる」と述べ、「鉱物と安全保障に関する協定については、ウクライナはいつでも都合のいい形式で署名する用意がある」と考えを明らかにした。
停戦に向けて、前向きに進んでいるように見える。だが会談後に話題になったように、今はまだ第三次大戦の危険性は確かに残っていると言える。ウクライナ東部で戦闘が続いており、「戦争」はどのような不測の事態に発展するかも分からない。