第三次世界大戦が起こる最悪のシナリオ
もっとも、第三次世界大戦に陥るような状況とは一体どういうものなのか。ロシアのウクライナ侵攻には、欧州の軍事同盟であるNATOの加盟国などが関与している。言うまでもなく、NATOのメンバーであるアメリカが最大の支援国で、武器だけでなく、ロシア部隊の動きなどインテリジェンス情報も提供してきた。
もしロシアのウクライナ攻撃がもつれてNATO加盟国を攻撃するような事態になれば、「加盟国への武力攻撃=NATO全体への攻撃と見なし集団防衛する」というNATO憲章第5条の集団自衛が発動される。そうなると、NATO諸国がロシアと直接衝突することになる。戦火は欧州全体に広がるだろう。
ただそんな事態になれば、ロシアは通常兵器では戦えないとして、小型の戦術核を使用する可能性も否定できない。戦術核をレッドライン(越えてはならない一線)とみなすアメリカや欧州も同様の攻撃で報復することになり、戦況は一気に世界戦争の様相になる。
欧州でNATOやアメリカが直接ロシアと事を構えたら、そのタイミングを好機と見る可能性が高い国がある。欧米側がロシアで手一杯になったのをチャンスとばかりに、中国が台湾に侵攻する可能性が出てくる。今、中国はアメリカと関税を巡る経済戦争を行っており、アメリカに対抗する意思を明らかにしていることも忘れてはいけない。そうなると、アメリカや日本、北朝鮮、韓国などにも緊張が走り、一触即発の状態になるだろう。実はアメリカでは、中国が核兵器を日本に向けて使う可能性のシナリオも、想定されている。
また現在、アメリカ、欧州とロシアが対峙(たいじ)している状況で、ロシア軍を支援するために北朝鮮兵も参加している。これまで1万1000人~1万5000人ほどの北朝鮮兵がウクライナの紛争に参加しており、3月5日にはウクライナ当局が北朝鮮は追加の兵士1500人を派遣したという情報を明らかにした。
この北朝鮮の動きを見て、朝鮮半島で敵対関係にある韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がウクライナに武器を提供するという話にもなっていたが、韓国国内で混乱が起きてユン大統領が職務停止になったことで、その話は進まなかった。代わりに、殺傷力のない軍事装備を供給し、人道支援や重要なインフラ復旧プログラム、地雷除去などに資金を提供している。
とはいえ、ウクライナの戦況が今以上に混乱に陥り、それが長く続けば、北朝鮮の関与が強まる可能性が高く、そうなれば韓国が武器提供ということも考えられる。その場合、ウクライナで朝鮮半島の代理戦争的な事態になったり、朝鮮半島で北朝鮮が韓国に攻撃を行ったりする可能性も高まり、世界戦争に近づく。
以上が第三次世界大戦のシナリオだ。これがトランプ氏の言う「第三次世界大戦の景色」ということになるだろう。
6カ月間での終戦を目指すトランプ政権。だが……
アメリカは2024年11月にトランプ氏が大統領選に勝利した後から、フランスなどでウクライナやロシアの関係者らと停戦に向けた協議を水面下で行ってきた。そして、まずは100日で終戦への道筋を作る予定で動いており、その100日を経てアメリカとウクライナが2月28日に会談したわけだが、それがゼレンスキー氏の“乱心”で不調に終わった。なおトランプ政権は6カ月間で終戦するのを目指しているので、これから鉱物の協定合意、停戦、そしてプーチン大統領との終戦合意を見据えている。その通りに進むのかはまだ未知数だと言えるが、少なくとも、このまま行くと第三次世界大戦のような事態にはならないと見ていいだろう。ただし、どんな不測の事態が起きるか分からない。
とにかく、ここから夏ごろまで、ウクライナ情勢は大きく動く可能性があるのは確かだ。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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