本質的な問題がどこにあるのかを改めて考えつつ、これからの日本の映像作品において、どのような認識を持ち、変わっていくべきなのかを記していきます。また、以下からはインタビュー記事などから一部抜粋していますが、それだけが本質的な内容ではないので、元の全文も読まれることもおすすめします。
日本でも、起用される作品は生まれつつある
簡単に、インティマシー・コーディネーターがどういった職業であるかと、直近で起用された事例を記しておきましょう。インティマシー・コーディネーターは性的なシーンの撮影において、監督をはじめ関係各所との仲介や調整、俳優の精神的なケアを行います。ハリウッドの性暴力を告発する2017年の#MeToo運動後に誕生したと言われており、近年ではインタビュー記事を筆頭にメディアで取り扱われる機会も増えています。
日本で最初にインティマシー・コーディネーターが導入された事例とされるのが、2021年4月にNetflixで配信された映画『彼女』。その後、同年放送のドラマ『それでも愛を誓いますか?』(朝日放送系)、2022のドラマ『サワコ 〜それは、果てなき復讐』(TBS系)、『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)、2023年の映画『怪物』や『正欲』、2024年の映画『52ヘルツのクジラたち』やNetflix配信の映画『シティーハンター』と、インティマシー・コーディネーターが起用される事例は増えてきてはいます。
「名前以外正しいところがない」描かれ方をされたドラマも
しかし、日本ではインティマシー・コーディネーターの認知が不十分、または誤解がされていると思える例もあります。2024年2月と比較的最近に放送されたテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の第4話では、現場にインティマシー・コーディネーターがいることへの戸惑いや混乱を「茶化す」ような描き方がされており、批判を浴びました。
同年5月に放送されたラジオ番組『アフター6ジャンクション2』(TBSラジオ)では、インティマシー・コーディネーターである西山ももこさんから、放送内容について「雑に描かれた」「名前以外正しいところがない」「私よりも一緒に仕事をした技術スタッフやプロデューサーの方が怒っていた」などと、厳しい言葉が投げかけられたこともあります。
一方で、『波 2024年4月号』(新潮社)の公式Webサイトで掲載された高嶋政伸さんによる連載エッセイの内容は称賛で迎えられました。ドラマ『大奥』(NHK)で、高嶋さんは娘に幼い頃から性的暴行を加え続ける父親(徳川家慶)役を演じており、いかにインティマシー・コーディネーターが大切な存在であるかを俳優の立場からつづった文章は、迫力と真摯(しんし)さを感じさせました。
こちらでは高嶋さんから「必ずインティマシー・コーディネーターを付けてください」とお願いし、製作サイドも「最初からそのつもりでいらした」ことや、インティマシー・コーディネーターの浅田智穂さんが初めて経験する難しい撮影でも、いかに連携を取りつつ最大限の配慮が行われていたかが、はっきりと分かるようになっています。
日本では起用される作品が(増えてはきているが)まだ少なく、フィクション上で完全に間違った描かれ方もされる一方で、連携を取り真摯に向き合う俳優や関係者もいる――。その現状を踏まえれば、日本でのインティマシー・コーディネーターの認知と活躍は、過渡期というにもまだ早い段階でしょう。