ヒナタカの雑食系映画論 第92回

『トラペジウム』がキラキラしているだけじゃない、新感覚のアイドル映画になった7つの理由

「乃木坂46」の1期生・高山一実による小説をアニメ映画化した『トラペジウム』が5月10日より公開中。本作はいい意味でキラキラしているだけじゃない、新感覚のアイドル映画であり、「主人公の性格が悪い」ことも大きな魅力。(※画像出典:(C)2024「トラペジウム」製作委員会)

3:主人公の性格が悪い。だけど、それだけじゃない。

その不穏さが見え隠れする1番の理由は、端的に言って主人公の性格が悪いこと。いや、どちらかと言えば、物語が進むにつれて、主人公の身勝手さ、言い換えればエゴ、それどころか「狂気」さえ見えてくることが、本作の見どころです。
トラペジウム
(C)2024「トラペジウム」製作委員会
そもそも、主人公が仲間集めをする根本の理由は「世間からの注目を集めるアイドルグループを結成する(自分自身がアイドルになるため)」であり、そのために美少女たちと友達になろうとしている、もっと言えば彼女たちを「利用している」とさえ取れる行動をします。

それでも、そういう打算的な考えは抜きにして、主人公は自身がかわいいと思った女の子と友達になりたいと心から願っているようにも見えますし、誘われた彼女たちそれぞれも(モチベーションは低いようでも)アイドルになるのをまんざらではないと思っているフシもあります。

だけど、そこには全く単純ではない、「嫌悪感」を含んだ複雑な感情が交錯していることが、会話の端々から伝わってくるでしょう。

4:「夢」が、恐怖や狂気をまとう「現実」へと変わる瞬間

例えば、主人公は「かわいい子を見るたびに思うんだ、アイドルになればいいのにって」「私はみんなをアイドルにしたい。そのためのきっかけを作りたい」などと自分の考えを語っています。
トラペジウム
(C)2024「トラペジウム」製作委員会
しかし、彼女は自身が声をかけた美少女たちが、同じようにそう考えているのかを十分に確かめないまま、自身の計画に巻き込みます。自分の考えを“押し付けている”とも言えるでしょう。

そして不穏な空気は、ある一点ではっきりとした「恐怖」として顕在化します。下手なホラー映画よりも怖いその瞬間は、人によっては主人公を嫌いになってしまいかねない、もはやトラウマ級といっていいものでした。

それでも、主人公の「私が選び抜いたメンバー。私の目に狂いはなかった。私たちが、東西南北が、本当のアイドルになるために。私がみんなを、もっともっと輝かせてみせる」という「夢」が、やがて狂気をまとう「現実」へと向かうことから、決して目をそらさないでほしいのです。
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「アイドルの幻想」をいい意味で打ち砕く
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