著名アーティストが続々移籍……あえて大手事務所から離れるメリットは?
ゆりこ:独立して最初から多くのスタッフを抱えない限り、単純にギャラの取り分は増えます。あと個人のファンクラブを設立すれば安定的な収益も見込める。大きな事務所に所属していると、いくら収益を上げてもマージンなどの影響でそのまま自分のところに入ってくることはないですし、自分たちのグループが稼いだお金が後輩グループの宣伝費や新人育成費用に回されることだってある。かつては先輩の稼ぎから恩恵を受けて育っているので、企業のシステムとしては真っ当なのですが、結果を出して会社に貢献すればするほど不満がたまっていくこともあるでしょう。
矢野:仕事がデキる会社員が抱きがちなモヤモヤと似ている(笑)。一方で、大手企業で優秀な成績を上げていた営業パーソンが、独立した瞬間に売れなくなる話もよく聞くじゃないですか。仕事が減るリスクもありますよね? それとも勝算があるからこそ出られるのか。
ゆりこ:辞めてから大手企業の名が載った名刺のパワーに気付くってやつですね。実際に私も20代に同じような経験をしたことがあります(苦笑)。ただ、最近独立や移籍を発表した方々は世界規模で知られるビッグネームばかり。既存のファンクラブ会員数、ソロアルバムの売り上げ、ソロコンサートの動員数……確信まではいかずとも、きちんと計算した上でいける!とジャッジしたのだと思いますよ。
加えて、「社内の他グループとの兼ね合い、スケジュールを気にしなくていい」ということもメリットなのでしょう。特に大手事務所には先輩・後輩含め多くのアーティストが所属しています。カムバ(新曲発表)やツアーの時期も他グループの動きも鑑みて調整しなければいけません。よく大手事務所の年間予定が流出するたびSNSで拡散されますが、個々のアーティストの意思とは別のところで、戦略的にスケジュールが決められてしまう部分も大いにあるでしょう。
矢野:社内の仲間同士で潰し合ってはいけませんしね。芸能事務所に限らずその他の企業でも、全体的な戦略に合わせて社内で対応順を調整するのはよくあることだと思います。
ゆりこ:移籍先にもアーティストが多ければ、似たようなことは起きるかもしれませんが、独立に近い状態であれば、ある程度自由になる。
矢野:キャリアと年を重ねて、いろいろなことが見えてくると、これからは「自分で決めたい、選びたい」という気持ちが生じるのも自然なことです。
ゆりこ:これは韓国に限った話ではありませんが、グループや本人のイメージなどを考慮して、本人に知らされないままマネージャーやスタッフの段階で断られている仕事も多数あるそうです。例えば、さわやかなイメージで売り出し中のアイドルに残忍な殺人鬼役のオファーが来たとして……本人は演技に興味があって、知ればやりたがりそうな仕事でも、事務所としてはNOと言わざるを得ない場合もある。逆に本人がやりたくない仕事を入れられることも。