ヒナタカの雑食系映画論 第84回

『すずめの戸締まり』が『天気の子』以前と変わった5つのこと。新海誠監督の“作家性”を改めて考える

地上初放送となる『すずめの戸締まり』が、『君の名は。』と『天気の子』の頃(それ以前)と変わった5つのこと、変わった理由を記していきましょう。(※サムネイル画像:(c)2022「すずめの戸締まり」製作委員会)

5:『星を追う子ども』の語り直しでもある

そんな『すずめの戸締まり』の物語の結末は、「災害ですでに亡くなった人を救いたいという願い」を描いた『君の名は。』、「災害とてんびんにかけてでも大切なただ1人を救うという選択」をした『天気の子』とは、相対するものかもしれません。

しかし、新海作品の『星を追う子ども』は「亡くした大切な人への執着に囚われてしまう」「それからの希望を描く」物語が描かれており、『すずめの戸締まり』はそちらに近い内容へと「回帰した」、または「語り直し」といえます(しかも、こちらもモノローグがない作品でした)。
 
『星を追う子ども』のラストシーンを見れば、より『すずめの戸締まり』は新海監督が新しいことに挑戦しつつも、やはり根底にある作家性や、メッセージ性の優しさは以前から変わらずにあるのだと、気付けるのではないでしょうか。

次回作も「もしも私があなただったら」という作品に

『すずめの戸締まり』の劇場公開からもう1年半近くが経過しているので、次回作が気になる人も多いでしょう。実は、先週に開催されたX(旧Twitter)のスペースで少しだけ、新海監督が言及していました。
 
スペースの初めのほうから「まだ何も言えない段階」であることを前提に、「肝要な心でゆったり待っていただければ」「新作にずっと向き合っている」「スタッフが集まっていると」語っており、今は「新作の制作に着手」している段階でしょう。

さらに、そのスペースの52分25秒ごろからは「次回作のテーマは決まっている」「細かいところは変わるかもしれないけれど、物語はある程度はできている」とも語っています。

さらに、新海監督はそれ以前の2023年3月の『news zero』(日本テレビ系)のインタビューにて、「次にメインで扱うのは災害じゃないかもと思います(でも分からない)」と語りつつも、「2011年(の東日本大震災)をきっかけにして、『もしも私があなただったら』、そこから逃れられないような考え方になってしまった」「『もしも私があなただったら』という要素が中央に入った映画は、たぶんこの先も作っていくんだろうな」とも語っています。

新海監督は東日本大震災の当事者ではないですが、前述したように『すずめの戸締まり』は当事者の喪失感をくみ取ろうと奮闘し、自分自身ではない想像上の鈴芽というキャラクターをもってして、やはり「もしも私があなただったら」と葛藤し考え抜いて作り上げた作品です。改めて、新海監督はなんと誠実で真面目な作家なのだと思えますし、やはり今後の「もしも私があなただったら」の作品も期待できるのです。

ちなみに、同スペースでは「世の中にはたくさん面白い映画がたくさんあるのでまずは面白い映画をたくさん見ていただければ」と語っており、現在公開中の『夜明けのすべて』『恋わずらいのエリー』『四月になれば彼女は』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』を称賛したり、はたまた『変な家』の大ヒットに言及する場面もあります。

この言葉通り、今は新海監督も推薦する、面白い映画を見ようではありませんか! 2023年に絶賛した「10作品」を選んで見るのもおすすめですよ。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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