世界を知れば日本が見える 第43回

大谷翔平選手に「忖度」がないアメリカ。メディアで言及される“矛盾点”を時系列順に整理した

連日取り沙汰されている、大谷翔平選手の元専属通訳・水原一平氏による違法賭博スキャンダル。アメリカではどう報じられているのか。(サムネイル画像提供:Los Angeles Dodgers/UPI/アフロ)

水原氏の違法賭博問題に連想する“ウェイン・ニックス事件”

ただ、もともと胴元であるボウヤー氏への、連邦当局による捜査が続いていることで、どこかで誰かが“うその証言”をしていることを連邦当局側が客観的な捜査でつかむようなことになれば、連邦捜査に対する「偽証罪」などで起訴される人が出てくる可能性がある。

これで思い出されるのは、海外で水原氏の違法賭博のニュースが出る際に、時々取り沙汰されるウェイン・ニックス事件だ。元マイナーリーグのプロ野球選手だったニックスは、2022年に自らが胴元として違法賭博を行っていたことで起訴された。さらにニックスの賭博組織に関係したとして、少なくとも11人がその後起訴されているが、この件に絡んで、連邦当局は水原氏の胴元だったボウヤー氏も監視するようになり、そこから水原氏の名前が連邦捜査で浮上したとみられている。

ウェイン・ニックス事件で起訴された11人の中にはプロ野球選手もいた。その選手は「賭博に関与していない」とうその供述をしていて、その後に「偽証罪」で起訴されている。

今後の動きは? 大谷選手はどうなるのか

今回、水原氏の捜査には、アメリカの税務当局であるIRS(内国歳入庁)や連邦検察当局だけなく、多額の金銭が動いていることによる資金洗浄(マネーロンダリング)に絡んでいないかを調べるアメリカ国土安全保障省の捜査員も関与している。

今後はさらに、FBI(連邦捜査局)などが絡んでくる可能性も指摘されている。そこに、これまで水原氏に関連して出てきたうそなどが取り沙汰されないとは言い切れない。

少なくとも、この件はこのままでは終わらない。連邦捜査がさらに広がる可能性に加え、「大規模な窃盗」が起きたのなら、大谷選手側からのカリフォルニア州の警察当局への被害届も必要になる。また本当に窃盗なら、大谷選手側が水原氏などに対して盗まれた預金を回収するための民事訴訟が起きる可能性もある。

特にスーパースターであるスポーツ選手にも忖度のないアメリカメディアは、引き続き、この矛盾を解明するための取材を続けるだろう。そして違法賭博事件でも記事が止むことはないと言っていいだろう。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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