観客のイマジネーションを刺激する、見どころ満載の舞台
そんな中で開幕した、2024年版の『千と千尋の神隠し』。
静寂の中、青空と地平線が映し出された幕に向かって、花束を握りしめた千尋がとぼとぼと歩いてくる姿から、物語は始まります。車で引っ越し先に向かう途中、森の中に迷い込んだ一家は、不思議なトンネルを発見。興味津々の両親にしぶしぶ続いて、千尋が中へと入っていくと……。
ここで幕が上がり、盆舞台が回って“異世界”があらわれます。
盆の上の舞台装置は、面が変わるたびに屋台になったり、神々のための湯屋「油屋」の表玄関になったり。原作映画の世界をリアルに再現しつつも、100%作り込むのではなく、あえて観客の想像に委ねた部分もあり、かつて『レ・ミゼラブル』で“盆舞台+イマジネーション”を駆使し、一世を風靡(ふうび)したケアード氏らしい演出です。
不思議な世界にひしめくのは、個性豊かなキャラクターたち。2年前の舞台『イントゥ・ザ・ウッズ』では“赤ずきんちゃん”を演じていた羽野晶紀さんは、今回驚きの“おばあちゃん声”を駆使し、湯婆婆を怪演(夏木マリさん、朴璐美さん、春風ひとみさんと交互出演)。
新キャストとしてハクを演じる増子敦貴さん(GENIC)は、シャープな動きでキャラクターの神秘性を印象づけます(醍醐虎汰朗さん、三浦宏規さんとの交互出演)。謎めいた存在として人気のキャラクター・カオナシは、中川賢さんがコンテンポラリー・ダンスの要素を取り入れた動きで体現(森山開次さん、小㞍健太さん、山野光さんとの交互出演)。台詞のほとんどない役柄に一層の奥行きが加わっています。
アンサンブルキャストの、八面六臂(ろっぴ)の活躍も見逃せません。神様や油屋のスタッフとして登場したかと思えば、道を照らすカンテラとしてユーモラスかつ美しいダンスを見せたり、黒衣としてパペットを自在に操ったり。特に数人がかりで滑らかに操る白竜は、トビー・オリエ氏の精緻なデザインもあいまって、まさに命が吹き込まれたよう。オクサレ様の体に刺さったあるモノを、千尋と皆が引き抜くくだりもエネルギーにあふれ、見どころの1つとなっています。