ヒナタカの雑食系映画論 第76回

『新聞記者』『ヤクザと家族』そして藤井道人監督がネクストステージに上がった映画『パレード』の魅力

Netflixで2024年2月29日より配信中の映画『パレード』。その監督である藤井道人の作家性と魅力を、代表的な4作品を振り返りつつ紹介しましょう。(※画像出典:Netflix映画『パレード』より)

最新作『パレード』は『すずめの戸締まり』を強く連想する物語

「現世に未練がある死者たち」が集まり、それぞれの過去や「残された人たち」と向き合う様が描かれた群像劇です。藤井道人監督は現実の社会に即したリアル路線の作品を多く手掛けていますが、今回は2020年の『宇宙でいちばんあかるい屋根』と同様にファンタジー要素が強い内容。冒頭から震災の大きな被害が描かれていることや、野田洋次郎(RADWIMPS)の音楽と主題歌もあって、『すずめの戸締まり』を強く連想しました。

元ヤクザを演じる横浜流星の「表情の演技」は圧巻

パレード
Netflix映画「パレード」 Netflixにて独占配信中
目玉はやはり、長澤まさみ、坂口健太郎、横浜流星、リリー・フランキー、森七菜、寺島しのぶという豪華キャストの共演。それぞれの俳優の持ち味がいい意味で極端なキャラクターにハマっており、わずかな時間でも強く印象に残るでしょう。個人的な推しは「ぶっきらぼうのようで優しさをにじませる元ヤクザ」の横浜流星で、中盤のとある光景を見たときの「うれしさと寂しさを同居させる表情」に圧倒されました。

物語を強くけん引するのは、リリー・フランキー扮する初老の男性。彼には『新聞記者』 『ヤクザと家族』を藤井道人監督と共に作り上げ、この『パレード』の企画にも携わった故・河村光庸プロデューサーの姿が強く反映されており、劇中のポスターに掲げられた「映画こそ、自由であるべきだ」 という言葉も河村プロデューサーのもの。そこから、「映画への愛情」も強く表れた内容になっているのです。

「親しい人の死」に遭遇した多くの人に刺さるメッセージ

タイトルさながらの「パレード」が行われる商店街では、300人を超すエキストラが協力し、和装、コギャル、ヒッピー、スケートボーダー、ヤクザに料理人、消防士に工事現場作業員といった、多彩な時代や状況にいた人たちの姿を反映していたそう。学生運動のシーンでも、当時を再現したセットを作り、200人以上のエキストラを動員し、さらにはフィルム撮影がされたりと、スケールの大きい画も見どころとなっています。
パレード
Netflix映画「パレード」 Netflixにて独占配信中
実質的には幽霊のはずのキャラクターが車やバイクを運転できていたり、食事や物資の調達についても詳細が明かされないなど、やや大味な設定や説明不足という難点はあるものの、あくまで「この世でやるべきことが残っている人たち」による寓話(ぐうわ)として捉えれば納得しやすくもなるでしょう。主要キャラクターは年齢や環境もさまざまなので、きっと自分自身を投影できる誰かがいるはず。そして、「親しい人の死」に遭遇した多くの人にとっての希望にもなるでしょう。

藤井道人監督の「作家性」は次の段階へ

藤井道人監督の作品で共通しているのは、「望まない状況にいて生きづらさを抱えていたり、同調圧力に苦しんでいる人」の姿を描いているということ。『新聞記者』はまさに権力から、『ヤクザと家族』では社会からの圧力に苦しむ様が描かれていますし、ブラックコメディーである『最後まで行く』でも「そうせざるを得なかった」2人の主人公の悲哀が描かれていたりするのです。

そして、『余命10年』と『パレード』では、はっきりと「死」という究極的に不可逆的で、誰もがいずれはたどり着くテーマに挑んでいます。死は往々にして悲劇であると捉えられますし、時に理不尽に訪れるもの。藤井道人監督らしい「生きづらさや苦しさ」を描く作家性が、ストレートに表れる題材ともいえるでしょう。

そして、『余命10年』ではその死に行き着くまでの疎外感を描きながらも、その限られた時間内でのかけがえない出来事と希望が描かれていました。さらに、『パレード』ではその死を経てもなおも「残された人」が得る希望や可能性を、死者の視点から描くという、藤井道人監督の作家性がさらに次の段階へと上がったかのような感慨深さがありますし、これまでの作品以上に、生きづらさや苦しさを抱える人たちへ寄り添う優しさを感じたのです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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