ヒナタカの雑食系映画論 第76回

『新聞記者』『ヤクザと家族』そして藤井道人監督がネクストステージに上がった映画『パレード』の魅力

Netflixで2024年2月29日より配信中の映画『パレード』。その監督である藤井道人の作家性と魅力を、代表的な4作品を振り返りつつ紹介しましょう。(※画像出典:Netflix映画『パレード』より)

3:『余命10年』(2022年)

同名小説の映画化作品で、約30億円の興行収入を記録した大ヒット作。タイトルから分かりやすく「余命宣告もの」のラブストーリーでありつつも、物語は安易な解決には全く頼らず、不治の病の過酷さや、それによる複雑な心理を丹念に描いた、とても誠実な内容になっていました。皮肉っぽさと繊細さを併せ持つ小松菜奈と、母性本能をくすぐる愛らしさがある坂口健太郎という2人を「ずっと見ていたくなる」ことも大きな魅力です。

主人公が死に至る病を抱える一方で、恋人となる青年は自ら死を選ぼうとしていた、という「対比」がドラマに強く作用していますし、それが社会でうまく生きられない、他の人とは違う「疎外感」を持つ人への、福音となるメッセージにもつながっていました。季節ごとの美しい風景を捉えた撮影と、映像とシンクロするRADWIMPSの音楽にも浸り切ってみてほしいです。

4:『最後まで行く』(2023年)

同名の韓国映画の日本リメイクで、ジャンルとしてはクライムサスペンスであり、同時にブラックコメディーです。岡田准一演じる主人公の刑事は、映画の冒頭から死体遺棄と飲酒運転という犯罪行為をダブルでやってしまう、その後も何から何までやっていることが「正しくない」人物。彼が次々と襲いくる予想外の事態に慌てふためく様は、大いに「黒い笑い」を届けてくれるのです。

対して、綾野剛扮(ふん)するエリート検察官もまた汚職に手に染める悪どい人間で、主人公とは初めこそ穏やかに接しているものの、次第に理不尽な状況にイライラを募らせて、ついには怒りが爆発し、真っ向から対決する……という流れも、やはり「悪い冗談」のようで笑ってしまいます。「クズVSクズ」という、どちらが勝ってもろくなことにならない戦いはエスカレートしていき、ある意味で大納得できる決着を迎えるので、ぜひお楽しみに。
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最新作『パレード』はどんな物語? 横浜流星の演技が圧巻
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