9:漫画『1日外出録ハンチョウ』
漫画『賭博破戒録カイジ』(講談社)に登場するキャラクター・通称「班長」を主人公としたスピンオフ作品で、単行本1巻収録の第6話「前世」では、思い切り『君の名は。』のパロディシーンが登場。2021年に新海誠監督が同作を好きだとXに投稿したことがきっかけで、その「前世」を含めて計3話が期間限定で無料公開されたこともありました。 新海誠監督は第15巻発売記念にベストエピソードを選んだ上に、「勝手にベスト10」のエピソードを発表。その中にはしっかり『君の名は。』のパロディ回の「前世」も入っています。その『1日外出録ハンチョウ』(同)は「おじさんが休日にご飯を食べたり遊んだりするのを眺めているだけなのにめちゃくちゃ面白い」秀逸な作品でもあるので、ぜひ気軽に読んでみてほしいです。『カイジ』をいっさい知らなくても楽しめます。
10:漫画『新しいきみへ』
『新しいきみへ』は妻の浮気を誤解した高校教師が傷心のまま旅をした先で、謎めいた少女と出会うというあらすじのミステリー漫画。その最終6巻の帯に、新海誠監督がコメントを寄稿していました。ネタバレになるので詳細は控えておきますが、実は「あるジャンル」の物語であることが中盤から明らかになり、さまざまな伏線が見事に回収される、上質な映画作品を見届けたような感動がある素晴らしい作品で、一連の流れは新海誠監督作品、『君の名は。』を連想するところもあったのです。
ちなみに、『新しいきみへ』(集英社)の作者である三都慎司は、高校生のときにインターネットで偶然『雲のむこう、約束の場所』のパイロット版トレイラーを見て、公式Webサイトで無限ループして見ていたそうです。
その他、新海誠監督はSF小説『三体』(早川書房)が世界的なベストセラーとなった劉慈欣(りゅうじきん)の短編集『円』(同)の帯にもコメントを寄稿しています。
『すずめの戸締まり』で「鳥肌の立つようなタイトルの出方」を目指したきっかけの映画も
他にも、新海誠監督はXの「スペース」でも、漫画や映画作品について話してもいます。2023年2月10日のスペースでは、『すずめの戸締まり』のタイトルが表示されるシーンについて、「映画『ヒメアノ〜ル』のような、鳥肌の立つようなタイトルの出方を目指したかった」と明言。『ヒメアノ〜ル』はタイトルの出る「タイミング」も含め絶賛の嵐となっているので、R15+指定納得のバイオレントな内容が乗り越えられる人はぜひ見てほしいです。
芹澤の名前は初代『ゴジラ』が元ネタ!
ほかに、現在でも録音を聴ける『すずめの戸締まり』公開1周年記念を記念した2023年11月11日のスペースでは、52分ごろから映画『ザ・クリエイター/創造者』や、56分30秒ごろから漫画『ダイヤモンドの功罪』(集英社) について語っていたこともありました。 さらに、33分30秒ごろからは『ゴジラ-1.0』の話題に。『君の名は。』の神木隆之介、『雲のむこう、約束の場所』の吉岡秀隆、『秒速5センチメートル』の水橋研二という、新海誠監督作で主人公の声を演じた俳優たちがそろって『ゴジラ-1.0』に出演しており、その3人が一緒に写った撮影現場の写真を見たというのも面白いです。さらに、『すずめの戸締まり』に登場する「芹澤朋也」というキャラクターの芹澤の苗字は、1954年の初代映画『ゴジラ』の芹沢大助博士が元ネタだと明言。「海外で大きく上映される、世界的なコンテンツとなる作品にしたいため、映画の内容がどうかではなく、音の響きとしてよく知られている名前にする」という意図で、セリザワという名前を使ったのだそうです。
その上で、新海誠監督は、『ゴジラ-1.0』について「まっすぐエンタメを作った、観客を楽しませる映画であること」などを称賛。庵野秀明監督が『シン・ゴジラ』を手がけたことも踏まえつつ、「自分には恐れ多くてゴジラ映画はできない(やりたくない)」などと謙遜しながら答えた一幕もありました。
もちろん、ここで挙げた新海誠監督が感銘を受けたり、気に入った、影響を受けた作品はほんの一部にすぎません。ほかにも新海誠監督のXでは舞台挨拶やファンへの感謝など、多数のうれしそうな投稿を見ることができます。併せて、ぜひチェックしてみてください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。