5:『ゴジラ-1.0』(11月3日より劇場公開中)
描かれる時代は戦争の終結から、その2年後。戦争からの復興の兆しが見えた頃に破壊の限りを尽くすゴジラの姿は、同じく戦争の「後遺症」を生々しく描いた1954年の初代映画『ゴジラ』のオマージュであると同時に、現実の日本が東北大震災の後にコロナ禍に突入したことをも彷彿(ほうふつ)とさせます。ゴジラに憎しみを抱く元特攻隊員を主人公とし、戦後すぐに女性と子どもと(擬似的な)家族となり、ゴジラとの戦いへ向かう物語の大きな原動力にしているのもうまいところです。命の危険のある作戦に挑む元海軍士官の民間人たちが「いい顔をしている」と語られ、批判されたはずの「貧乏くじ」を引くことをポジティブに捉えたような演出には違和感を覚えましたが、それもまた「政府が頼れないので民間で何とかする」コロナ禍の世相のメタファーにも思えましたし、最終的な結論そのものは真っ向からの戦争批判として筋の通っている、カタルシスのあるものでした。
海外でも絶賛され、日本映画の記録を塗り替える大ヒット記録を伸ばし続けていることも、とても喜ばしいです。白黒(モノクロ)映像での上映となる『ゴジラ-1.0/C(ゴジラマイナスワン/マイナスカラー)』が2024年1月12日に公開となるため、日本でもさらなるヒットも期待できるでしょう。
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6:『君たちはどう生きるか』(7月14日より劇場公開中)
宮崎駿監督の幼少期が確実に反映されており、主人公の少年と宮崎駿には、幼い頃から母が不在(死別、寝たきり)であったり、父が航空機会社に勤めていたり、吉野源三郎の小説「君たちはどう生きるか」を読み感銘を受けるなど、共通点が非常に多くあります。そして、戦中・戦後ならではの世相としては、疎開先で初めて会う父の再婚相手が、母の妹だったことがあります。実際に当時は配偶者が戦死または行方不明になる事例が多く、近親者のきょうだいと結婚することも珍しくなかったのだとか。主人公は初めにそのことに嫌悪感を募らせていたものの、冒険を通じて彼女を母として認められるようになる、その心の成長を描く物語だったともいえるでしょう。
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