ヒナタカの雑食系映画論 第58回

『ゴジラ-1.0』に『鬼太郎』。2023年に「戦中・戦後ものの映画」が多数公開される意義とは

『ゴジラ-1.0』や『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』など、2023年には第2次世界大戦、またはその後を描いた映画が数多く公開されました。その理由と意義を、作品を振り返りつつ考えてみます。(サムネイル画像出典:(C) 映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会)

3:『ほかげ』(11月25日より劇場公開中)

2部構成で描かれる映画で、前半では終戦直後の小さな居酒屋で売春をしている女性と、空襲で家族を失った子どもが交流する様が描かれます。「火影」というタイトルに沿うような赤黒い画面の中での苦しい生活、さらに擬似的な家族を構築し希望を見つけていく過程が描かれるため、心から幸せを望みたくなるでしょう。

後半では様相がガラリと変わり、片腕が動かない謎の男が子どもと共に、とある「仕事」に向かう旅が描かれます。道中で出会う青年、そして目的の場所での問答、そしてラストシーンそれぞれで、簡単には拭い去れない戦争の「傷跡」が表れていました。小規模公開かつ低予算であることがうかがえる作品ですが、それでも画や音響には工夫が凝らされてますし、「鬼気迫る」という形容が相応しい趣里や森山未来の熱演は、ぜひスクリーンで見届けてほしいです。

4:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(11月17日より劇場公開中)

誰もが知る『ゲゲゲの鬼太郎』の、子ども向けに展開していたテレビアニメの劇場版ながら、PG12指定がされる残酷描写も入れ込んだ大人向けの内容です。時代背景は昭和31年で、戦争終結から10年余りが経過した時。主人公の1人である「水木」は玉砕特攻を命じられる苛烈な戦争体験をしており、搾取構造がまかり通る戦後日本で権力を求める人物となっています。

物語の主な舞台となるのは、帝国主義的かつ、弱者を平然と踏みにじることもいとわない因習がまかりとおる閉鎖的な村。もう1人の主人公であるゲゲ郎(鬼太郎の父)はただ愛する妻を探し続け、水木も殺人事件の捜査をする中で尊厳のある「人間」として決着をつけようとします。その2人の「バディ」感はとても尊いものでしたし、あの時代に苦しんだ人たちの「鎮魂」の意思も確実に込められていました。
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『ゴジラ-1.0』だけではない、忘れてはいけないあの作品も
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