ヒナタカの雑食系映画論 第51回

映画『翔んで埼玉』続編はなぜこんなに笑えるのか。埼玉県民、滋賀県民の熱狂を生んだ「発明」とは

公開初日から(埼玉県と滋賀県で)社会現象級の盛り上がりを見せた『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』。ここまで笑えて、そして感動できる理由は、前作の「発明」にあり、今回はそれを踏襲しつつパワーアップをしていたのです。※サムネイル画像出典:(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会

「琵琶湖の水止めたろか」ネタをメインでイジる続編に

すっかり前置きが長くなってしまいましたが本題。前作から4年たっての今回の続編『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』の見どころは、何よりもスケールの広がりです。
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(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
今回の争いの中心となるのは、海のない埼玉県とは対照的な、日本最大の湖こと琵琶湖がある滋賀県。その周りの県も含めたネタが盛大にイジられることになり、物語上でも「そんなバカな!」と思うばかりの、いい意味でツッコミどころ満載の展開へとなだれ込んでいくのです。

そのネタの中でも特に目立つのは「琵琶湖の水止めたろか」という常とう句。都会であることを自負している大阪府民や観光名所が多い京都府民が「マウントを取る」ことに対し、「そんなことを言うと琵琶湖の水を止めるぞ!」と滋賀県民が対抗心を燃やす様が、これまた『月曜から夜ふかし』で取り上げられていたのです。
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(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
さらに、劇中の京都では遠回しな言い方をする「京ことば」が世にもバカバカしいイジられ方をしたり、大阪ではとある有名な映画のパロディが笑える領域を超えて狂気的だったりする(ここは賛否両論?)など、ネタのそれぞれで「作り手がブレーキをかけずにやり切っている」感じが大いに伝わってくるでしょう。

それでいて、ただネタをバラまくだけではなく、時にはそのネタが物語上で生かされる「まさかの伏線回収」があったりもしますし、関西ばかりをイジらず「武蔵野線」ネタで埼玉県の「したたか」な面も示すのもうまいところです。
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(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
関東と関西の2つの地それぞれで連絡を取りつつ、大阪のめぐらせた陰謀に立ち向かい、さらなるスペクタクルへと発展する物語にもダイナミズムがあります。そして、前作に続き「これだけは誰にも奪わせない郷土愛や自尊心」もしっかり描かれてもいました。

ちなみに、作り手が「琵琶湖の水止めたろか」という鉄板ネタへと行き着いたのは、当初は和歌山をストーリーの軸にしようと考えていたものの、いざ現地を巡ってみると、そこまでネタが豊富でなかったこともあるのだとか……こう書くと和歌山県民には申し訳ないですが、ちゃんと和歌山県もイジられるのでご安心を(?)。

出演俳優が大真面目だからこそ笑える

そんなわけで、「舞台を関西へと広げたことで、イジるネタを増やし、物語もスケールアップさせる」という真っ当なアプローチでパワーアップした続編というわけなのですが、それ以外の大まかな特徴はいい意味で前作とはあまり変わっていない、つまりは前作で築き上げたコメディー映画としてのアプローチ、構造がいかに秀逸だったのかと思い知らされます。
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(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
そのコメディー映画としてのアプローチで何よりも重要なのは、登場キャラクターというか出演俳優の演技が大真面目であること。それぞれが本気で争いに挑んでいるからこそ、それを客観的に見ている観客は絵面や起こっている出来事のバカバカしさがギャップとなり笑えるというのも、映画『翔んで埼玉』の発明。ほかの映画ではオーバーアクトとして敬遠されがちな大仰な演技演出も、誇張された世界観には完全にプラスに働いているのは間違いありません。

さらに、前作から踏襲された構造には、「劇中の物語をラジオで聞いている平凡な家族の物語」も並行して描かれることもあります。極めて観客に近い視点を挟み込むことで、いい意味で「冷めさせる」「客観的になれる」からこそむしろ物語に入れ込みやすくなりますし、「この物語に近いことが現実にも起きていないか?」とハッと気付かせる効果も生んでいたりもしました。
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(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
ちなみに、武内英樹監督は前作から俳優たちに「とにかく真面目にやってください、NHKの大河ドラマのつもりで、一切ふざけなくていいです」などと演技指導をしていたのだとか。ある意味で「大真面目にバカなことをやる」という基本をやり切っているからこそ、ここまで大衆にウケたコメディー映画になったのでしょうし、今回は前作からさらに豪華な出演者がそろったことで、その面白さもやはりパワーアップしているのです。
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