ヒナタカの雑食系映画論 第42回

スラムダンクやワンピースだけじゃない! 「漫画原作」の名作アニメ映画10作品を本気で選んでみた

漫画をアニメ映画化した名作を一挙10作品紹介します。それぞれ映画単体で楽しめる内容になっていますので、ぜひお気軽に見てみてください。※サムネイル画像出典:(C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会

8:『映画 聲の形』(2016年)


物語の始まりに描かれるのは、小学生の男の子による聴覚障がいを持つ女の子へのいじめ。そして、その男の子が後悔を抱えたまま高校生になり、その女の子と再会してからの物語が紡がれた青春劇です。少年少女の贖罪(しょくざい)、自己肯定、はたまた「許し」の感情が、“きれいごと”を許さない自己批判的な言及も交えながらも示されています。

全7巻の原作をアニメ映画化するにあたっての細やかな改変の数々はこれ以上はないほどのもので、クライマックスからラストにかけての「ほんの少しの変化」は涙なしには見られません。仲違いやすれ違いを重く受け止めがちな若者たちへ、少しだけでも(欠点を含めた)自分のことを好きになれる、他人のイヤな部分も受け入れられるようになるかもしれないメッセージは、とてつもなく優しいものでした。同じく山田尚子監督×吉田玲子脚本×牛尾憲輔音楽による2024年公開の『きみの色』にも大期待です。

9:『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015年)


浮世絵師の葛飾北斎と、その娘の葛飾応為の姿を描いた歴史ものながら(はっきりと登場はしなくても)「妖怪」の存在が示されり、半ばファンタジーめいた表現もある、独特の魅力に満ちた作品です。少し不思議な話と共に示される、江戸の豊かな風景やクセの強い人物描写それぞれに魅了されるでしょう。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』が特に有名な原恵一監督は、『カラフル』『かがみの孤城』などでは繊細な心理描写、はたまた良い意味で居心地が悪くなるホラー的な演出にも定評があり、今回も「暗がり」を活かした恐怖と幻想が入り混じる表現が見事でした。G(全年齢)指定とはいえ内容は大人向けで、ごく軽めな性的な描写があることにはご注意を。

10:『アシュラ』(2012)


10歳にも満たない子どもが生きるために人を殺し、その肉を喰らう様が描かれる内容で、原作はその残酷描写と人肉食のシーンのために有害図書指定を受けたことでも有名です。しかし、主人公のアシュラの声優を務めた野沢雅子の「(原作を)発禁にするなんてとんでもない、世界中の人に見て欲しい」という言葉に完全に同意できるほど、実は道徳的な内容にもなっています。

飢饉に見舞われ食べ物のない世界、そして主人公が人を喰らうシーンは本当に気が滅入るものですが、だからこそ、人間が「ケダモノ」へと変わっていく悲劇と残酷性を描くことに成功しており、75分のタイトな上映時間の中でも「こうならないため」の学びを得ることでができるでしょう。流血シーンが多いのでさすがに小さい子にはおすすめしませんが、直接的な描写はそこまで苛烈ではなくレーティングはG(全年齢)指定ですので、若い人にもぜひ見てほしいです。

ほかにも漫画原作の名作はまだまだある!

このほか、「ドラッギー」とも評される表現や独創的な物語が世界中のクリエイターに影響を与えた『マインド・ゲーム』、大人向けのアニメとしても超能力SF映画としても金字塔である『AKIRA』、鳥山明らしいキャラクターの魅力が全開の『SAND LAND』、スポ根ものの『ブルーサーマル』も、もっともっと心から多くの人に見てほしいと願える漫画原作のアニメ映画です。
 

2023年2月には絶賛の口コミが寄せられた『BLUE GIANT』が公開。そして、2023年10月27日より全国36劇場で、発売中のBlu-ray&DVD収録の200カット以上ブラッシュアップされたバージョンが、期間限定でアンコール上映されます。
そのほか、アニメシリーズが展開していながらも、映画だけでも十分に楽しめる『劇場版 からかい上手の高木さん』『映画 ゆるキャン△』なども、かわいいキャラが織りなす雰囲気にほっこりできる、原作へのリスペクトも存分な内容になっていました。
 

はたまた、アニメシリーズが展開しながらも、押井守監督の独特の感性と語り口によって絶大な支持を得た『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』もあります。劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズもそうですが、原作のキャラクターの魅力を借りつつ、映画独自の魅力を発揮した作品といえるでしょう。

そして、超有名作の漫画のアニメ映画作品ももちろん良いですが、これらの名作の存在も、まず知ってほしいのです。そして、気兼ねなく、「ちょっと見てみようかな」な感じで、作品に触れてみることをおすすめします。


この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。


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