視聴率は6.8%は十分な数字?
金曜ロードショーで放送されるスタジオジブリ作品や劇場版『名探偵コナン』が、近年でも10%に迫る(また超える)視聴率を記録していることを鑑みると、『葬送のフリーレン』の6.8%はやや低い数字に思えるかもしれませんが、個人的には大健闘していると思います。例えば、国内だけで137.5億円の興行収入を記録した『劇場版 呪術廻戦 0』でもMBS・TBS系で地上波初放送された時の(世帯)視聴率は4.3%。絶賛に次ぐ絶賛が寄せられた『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 が金曜ロードショーで初放送された時でも視聴率は5.1%でした。今回の『葬送のフリーレン』はテレビアニメの初回一挙放送であり、劇場公開済みのアニメ映画との単純な比較はできませんが、やはり十分な数字に思えるのです。
そして、『葬送のフリーレン』の原作漫画は累計発行部数が1000万部を超える大ヒット作。だからこその今回の初回一挙放送の話題性および視聴率があったともいえます。そして、『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『推しの子』『SPY×FAMILY』のように、もともとの原作漫画の人気に加えて、超ハイクオリティなアニメ化により、さらなる社会現象的なコンテンツへとなっていくかはまだまだ「これから」。今後の盛り上がりにも期待できます。
“その後”の物語をしみじみと楽しめる作風
視聴率よりも重要なのは、この『葬送のフリーレン』は「テレビアニメの初回を金曜ロードショーで一挙2時間放送」という異例の取り組みにより、作品の魅力をはっきりと伝えることに大きな意義があったと思えることでした。その理由の筆頭は「長い時の流れ」が「あっという間に過ぎる」ことを感じさせる作品であることです。あらすじを紹介しておきましょう。主人公であるフリーレンは1000年以上の長い時を生きるエルフであり、第1話で彼女は50年の時を経て、かつての仲間である勇者ヒンメルと再会します。フリーレンは若い姿のままですが、一方でヒンメルは年老いており、そしてこの世を去ります。その葬式で、共に過ごした10年の冒険を思い出したフリーレンは「人間の寿命は短いって分かっていたのに、なんでもっと知ろうとしなかったんだろう」と後悔し、その10年の冒険の足跡をたどりつつも、あてのない旅に出ることになります。
まず、キャッチーかつ変わっているのは「魔王を倒した勇者一行の“その後”」の物語だということ。そのこともあって静かに展開する穏やかなエピソードが多く、派手なアクションは主軸にはなっていない、主人公が熱血だったり強い意志を持っているわけでもない、悪い言い方をすれば地味な作風なのですが、「こういうのもいいなあ……」と、既存の大ヒット作とはまったく異なる、しみじみと楽しめる内容こそが支持を得ているのだと思えたのです。