作品それぞれの子どものことを考えたコンセプト
プリキュアシリーズについて、簡単に紹介しておきましょう。その始まりは2004年放送の『ふたりはプリキュア』(テレビ朝日系、以下作品同)。「女の子だって暴れたい」をコンセプトに、かわいいキャラクターとコスチューム、激しい肉弾戦主体のアクション、尊いキャラクターの関係性、ヒーローものとしてのアツさなどが好評を博し、20年にわたって続く人気作となりました。6作目『フレッシュプリキュア!』以降は1年ごとにキャラクターやコンセプトが一新したタイトルになるのも特徴。その大きな魅力の1つ「変身シーン」は作品を重ねるごとにゴージャスでバラエティ豊かになっています。
(まだまだシリーズをぜんぜん追いきれていない身でいうのも恐縮ですが)個人的に最も好きで、おすすめなのは18作目の『トロピカル~ジュ!プリキュア』。ギャグ多めの明るい作風で、「今一番大事なことをしよう」というメッセージはコロナ禍で塞ぎ込みがちな時期の放送だったからこそ、より多くの人に響くものでした。
ほかにも、16作目『スター☆トゥインクルプリキュア』は星座と宇宙が大好きな女の子が主人公であり、宇宙人たちとの交流により「異文化交流」「相互理解」「多様性」の素晴らしさを分かりやすく伝えていて、宇宙に関連する仕事に就くかもしれない(それ以外の多様な)子どもへのエールにもなっていました。
さらに、19作目『デリシャスパーティ プリキュア』はご飯を食べることへの喜び、現在放送中の20作目『ひろがるスカイ!プリキュア』では誰かを助けたいと願う女の子がヒーローを目指す様を描いています。前者は助っ人的な戦士の男の子、後者はレギュラーキャラクターとして初の「男の子プリキュア」も登場し、男の子でも自身をキャラクターに投影して楽しみやすくなりました。
いわば、プリキュアシリーズは、それぞれが子どもの願いや将来を考えたコンセプトになっているという、作り手の志(こころざし)の高さを強く感じる内容なのです。その志こそが、大人にも届いていたのでしょう。それでいて堅苦しさはまったくなく、ほのぼのとした日常を過ごすかわいいキャラクターの魅力や、ヒーローものとしての激しく派手なバトルなど、やはり大人もハマることに大納得できる楽しさがたっぷりあるのです。
さらに、今後は「オトナプリキュア」と称した新シリーズも展開。10月7日より4作目『Yes!プリキュア5』および5作目『Yes!プリキュア5GoGo!』、さらに3作目『ふたりはプリキュア Splash☆Star』のキャラクターが大人になった姿を描く『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』(NHK Eテレ)が放送されます。
さらに、13作目『魔法つかいプリキュア!』の正統続編が2024年に深夜枠で放送予定。男子高校生がプリキュアに変身する舞台「『Dancing☆Starプリキュア』The Stage」の上演も決定しています。大人から強い支持を得ても「女児向けアニメ」であり続けたプリキュアシリーズが、明確に大人にターゲットを定めるようにもなってきたのです。
過去のギネス認定記録を超えたマジカル戦士の人数
すっかり前置きが長くなりましたが、今回の『プリキュアオールスターズF』の何がすごいかといえば、まずはその人数。なんと、78人(+α)ものプリキュアが登場するのです。もちろんその人数を書き込む労力は半端ではなかったようで、作画監督を少し手伝ったアニメーターの川村敏江は「あまりの人数の多さにガチで泣きそうになったのは秘密だ……」などとX(旧Twitter)に投稿していました。歴代のヒーローが集結することから、アメリカンコミック原作のヒーロー映画『アベンジャーズ』を連想する人も多いでしょう。『アベンジャーズ/エンドゲーム』でも主要キャラクターは32人だったので、その約2.5倍もの、それぞれに名前と特徴があるヒーローが一堂に集まる……と考えると、それがどれほど途方もないことか、お分かりいただけるでしょうか。
ちなみに、歴代のプリキュアが集結する「オールスターズ」シリーズは過去にも作られていて、長編1作目の『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』に登場するプリキュアはまだ14人。しかし、15周年記念作品の『映画HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』では総勢55人となり、「アニメ映画に登場する最も多いマジカル戦士の数」としてギネス世界記録に認定されているのです。
シンプルに、人数だけでも世界記録を更新し続けるプリキュアは、唯一無二のコンテンツなのです。
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