ヒナタカの雑食系映画論 第34回

宮崎駿、新海誠だけじゃない。作家性にあふれた「原作がないオリジナルアニメ映画」の傑作を見てほしい

宮崎駿、新海誠、細田守……原作のないオリジナル企画のアニメ映画の監督は、まだまだたくさんいます。「これだけは見てください!」と心からお願いできる、監督の作家性が強く表れたアニメ映画を4作品紹介しましょう。(C)新見伏製鐵保存会

3:『プロメア』(今石洋之監督)


テロを繰り返す過激派集団と、消防隊員たちの戦いを描くアクションドラマ。大きな特徴は良い意味での暑苦しさとハイテンションぶり。まるで歌舞伎の「大見得を切る」ようなセリフの数々は格好良く、とあるインパクト抜群の「技名叫び」に笑ってしまうなど、良い意味でバカバカしくさえあるノリこそが心地よい(と同時に、良い意味でちょっと疲れる)内容となっていました。

それでいて、望まずして持ってしまった特殊能力により差別を受けるという設定は『X-MEN』的でもありますし、後に明かされるとある真相も含めて、現実の世界にある差別と偏見の寓話(ぐうわ/教訓を与える物語)にもなっているという、志の高さがあります。

声優を務めた松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人それぞれの演技のインパクトも強く、男性キャラの魅力のためか、女性を中心に人気を獲得し、興行収入が15億円を超えるヒットになっているので、ぜひとも地上波放送でも盛り上がってほしい1本です。

なお、今石洋之監督は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』など、やはり勢いのある作風のアニメで人気を博しましたが、個人的な最高傑作はNetflixで配信中のアニメシリーズ『サイバーパンク エッジランナーズ』。こちらはゲームを原作とし、16歳以上を対象としたエログロを織り交ぜた刺激の強い作品です。1話から主人公の少年が絶望の淵に立ち、そしてアウトローな道へと走り出す悲劇性の強いドラマが大きな見どころとなっています。

4:『アイの歌声を聴かせて』(吉浦康裕監督)


1人ぼっちの女の子の元に、女子高生AIがやって来ることから始まるSF青春コメディーです。個性的な高校生たちが周りにロボットだとバレないように奮闘するドタバタ劇がまず面白く、その過程で彼ら彼女らの繊細な悩みが解消されていくドラマ、時には本気で恐怖するほどのホラー、潜入ミッション的な活劇も展開していきます。さらに予想だにしない号泣ものの感動へとなだれ込んでいく、多数のジャンルが有機的に絡み合った非常にロジカルに作り込まれた物語がとてつもない完成度を誇っています。

吉浦康裕監督はWebアニメシリーズ『イヴの時間』で人間とロボットの関係性を描き、短編アニメ映画『アルモニ』では『桐島、部活やめるってよ』に近いスクールカーストのある高校でのダウナーな青春物語を展開していました。それぞれで見られた作家性が、万人が楽しめる明るい作風となった『アイの歌声を聴かせて』に注ぎ込まれています。

さらには多数のSF作品だけでなく、ディズニーのミュージカルアニメへの「ラブレター」とさえいえるオマージュもあり、それどころか「創作物」そのものへの意義を問い直すような構造も備えています。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の大河内一楼が共同脚本を手掛けてこそ生み出された、キャラクターそれぞれの尊い関係性も見逃せません。

AIを通じて人間の「主観」を描き、ひいては「幸福とは何か」という根源的な問いに答えた意義もとても大きなものです。音楽やテンポも非常に計算し尽くされているために何度見ても心地よく、ミュージカルシーンそれぞれのクオリティもこれ以上なく高いので、ぜひ映画館に近い、より良い環境で見ることをおすすめします。今では各種配信サービスで見やすくもなっていますので、全ての映画の中で最も優先してご覧になってほしいです。


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