備前焼の町、伊部
伊部(いんべ)は備前焼の町。改札口には、「ようこそ 焼物のふるさと 備前市へ」と横書きの看板が掛かっている。立派な駅ビルが建っていて、2階には備前焼の展示や販売を行う備前焼伝統産業会館がある。レンガ造りの赤い煙突や土塀をめぐらした家屋など古い町並みが今も残る。備前焼の陶芸体験をしたいのなら、駅前からタクシーで5分ほどのところにある夢幻庵備前焼工房を訪ねてみたい。電動ろくろを使って自分だけのお皿やカップ、おちょこなどを創作できる。全く初めてでも懇切丁寧に指導してもらえるので何とか形になる。カフェも併設していて、備前焼のカップでコーヒーや紅茶を飲んでくつろげる。
参考:備前焼の陶芸体験ができる夢幻庵の公式Webサイト
日本遺産・旧閑谷学校
伊部から少し足を延ばして特別史跡・旧閑谷(しずたに)学校も訪ねてみたい。江戸時代前期に岡山藩主・池田光政によって創建された、現存する世界最古の庶民のための公立学校である。2015年に「近世日本の教育遺産群」として弘道館、足利学校跡などとともに最初の日本遺産に認定された。
国宝になっている講堂の床に正座して論語を学ぶ姿は旧閑谷学校の伝統である。敷地内は桜と紅葉の名所なので、春や秋に訪問するのがおすすめだ。伊部駅からタクシーに乗るか、後続の普通列車に乗り換えて備前片上駅あるいは伊里駅まで行くと、バスの便もある(乗車時間10分ほど、曜日と発車時刻に注意)。参考:旧閑谷学校の公式Webサイト
終点は、カキの養殖で知られた日生
最後は山深いところをいくつもトンネルで抜け、右手に海が見えてくると、終点・日生(ひなせ)だ。70分ほどの旅。もう少し乗っていたいと後ろ髪を引かれる思いでホームに降り立つと、磯の香りがして目の前は小さな港。日生はカキの養殖で知られる。 さらに、カキを入れたお好み焼き「カキオコ」がご当地グルメだ。時間は少し早いけれど、駅から歩いて10分以内のお店でランチはカキオコを食べたい。カウンター席だと、目の前で焼いている様子を見ることができる。ソースやしょうゆをかけて食べるが、食べ方を教えてもらうと一層おいしく感じられる。参考:「日生カキオコまちづくりの会」公式Webサイト 食後は、散歩がてら歩いて10分ほどの港のはずれにある「五味の市」訪問がおすすめだ。11月から3月にかけては新鮮なカキの販売を行っている。また、ここの名物はカキフライソフト。意表を突く組み合わせがユニークだ。昼食後のデザートにいかがだろうか。 さらに駅前でレンタサイクルを借りて、備前日生大橋の上から湾に浮かぶいくつものカキ筏を眺めるのも一興だ。静かな瀬戸内海を眺めていると、日頃の慌ただしさを忘れ、心が洗われる気がする。 「ラ・マル備前長船」は、「ラ・マル・ド・ボア」の4つのコースの中では1番新しく、2021年夏に運行を開始した。この車両は、瀬戸内国際芸術祭へのアクセスとして宇野線で2016年4月から走り始めたのが最初だ。この宇野線を走る「ラ・ボアせとうち」や宇野駅周辺については稿を改めて紹介したい。
参考
・「ラ・マル・ド・ボア公式Webサイト
・備前エリアの観光スポット情報
取材協力=JR西日本、岡山県備前県民局、岡山備前プレスツアー事務局(サニーサイドアップ内)
この記事の筆者:野田隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。