ヒナタカの雑食系映画論 第33回

映画『バービー』、なぜ“マリオ超え”の大ヒット? フェミニズムを打ち出す作品が興行的に成功した意義

映画『バービー』の全世界での興行収入が『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を超えて2023年公開の映画の中でNo.1に。公開前からの盛り上がり、そして賛否も含む議論も話題となった理由をまとめてみましょう。

日本では動員が伸び悩むものの、日本人こそが見るべき理由

そのように映画『バービー』が世界中で大ヒットとなっている反面、日本では公開初週の興行成績は8位。その後も物足りない動員数にも思えますが、筆者個人は致し方のない、むしろ順当ともいえる成績だと考えています。原爆を揶揄(やゆ)した非公式のネットミームにアメリカ公式X(旧Twitter)がリプライして大炎上したことも、わずかに影響はしていそうですが、それだけではありません。

何しろ、日本にはリカちゃん人形があり、バービーの認知度が他国よりもかなり低いのです。実際に1967年にリカちゃん人形が売り出されてから、バービーの日本での人気は下降の一途をたどり、日本マーケットから撤退しています。
 

『トイ・ストーリー』シリーズの2、3作目にもバービーが登場していますし、日本でも「名前だけは知っている」人は多いとはいえ、バービーに強い思い入れがある人がほとんどいないことが、やはり日本で動員が伸び悩む大きな理由になっているといえそうです。

とはいえ、映画『バービー』はバービーというおもちゃに思い入れがなくても、ドタバタが巻き起こるコメディーとして大いに楽しめる内容です。また、日本は2023年の男女格差を示すジェンダーギャップ指数が146カ国中125位と著しく低いからこそ、まさにジェンダーギャップの問題をストレートに描いた『バービー』は日本人こそが見るべき映画ともいえます。

現時点(2023年9月6日)で上映回数は少なくなってしまいますが、笑い声があちこちから聞こえる映画館で見てこその楽しさも間違いなくあるので、ぜひとも優先的に劇場に足を運んでほしいです。
 
『バービー』
(C) 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

また、バービーについて予備知識がほしいという人は、ぜひNetflixで配信されているドキュメンタリー番組『ボクらを作ったオモチャたち』のシーズン1の第2話「バービー」を見ることをおすすめします。そもそもの人形の造形のアイデアからして「えっ!? そうなの!?」と驚ける事実がたくさんありますよ。
 

映画『バービー』と『マリオ』の共通点

最初に掲げた通り、『バービー』は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を超えて2023年の映画No.1の座を獲得したわけですが、この両者には共通点があります。

その1つは、いわずもがな何十年にもわたって愛され続ける世界的なコンテンツを映画にしたこと。そしてもう1つは、女性が主体となり活躍し、かつ男性にも「自分らしさ」を見失わないことの尊さを示していることです。
 

映画『マリオ』でのピーチ姫は為政者としても、自らから武器を携えて戦う女性として強く、マリオはそんな彼女のもとで「修行」をして、そして行方不明の弟のルイージのために奮闘します。

一方で、映画『バービー』で画一的な生き方をしていたバービーが今までの世界から飛び出し、そのパートナーであるケンが客観的には滑稽ですらある価値観に囚われてしまうさまを考えれば、両者は正反対のようにも思えますが、実は「男性と女性が相互的に学び合う」ことは一致していたりもするのです。

そうした現代にふさわしい価値観だけでなく、原作への愛情とリスペクトも深く、何よりエンターテインメントとして抜群に面白い映画『バービー』と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が世界的な大ヒットしていることが、うれしくて仕方がありません。両者とも、さらに多くの人にさらに見られることを、何よりも願っています。


この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。


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