フェミニズムにあふれたテーマ、賛否も含む議論も後押しに?
そうした公開前の話題性およびSNSでのブームだけでなく、映画『バービー』の内容そのもの、特にフェミニズムにあふれたテーマが話題となり、賛否を含めた議論をも引き起こしたからこそ、さらなるヒットを呼んでいるとも考えられます例えば、バービー人形には何十種類の職業にもなれる衣装の拡張性があり、「何にでもなれる」大人の女性に憧れる女の子へのエンパワメントにもなっていた「はず」だったのですが、劇中ではそのバービー人形に、人間の女の子からの容赦のない批判が浴びせられたりもします。バービーというおもちゃをむやみやたらに持ち上げるだけでなく、問題として語られるべきこともしっかり取り上げられているのです。
さらにバービーのボーイフレンドの人形であるケンは、人間の世界で見た、笑ってしまうほどにカリカチュアされた「男らしさ」に染まってしまうのですが、それは男性にとって少なからず思い当たる、同時に切なくなってしまうものでした。そこに悪い意味で居心地を覚えた男性から批判的な声も上がっていたのですが、筆者個人はその居心地の悪さがあってこその「男性にも見てほしいフェミニズム映画」になっていると思います。
ほかにも、バービーをこの世に送り出したおもちゃメーカー・マテル社に対してのメタフィクション的な言及やブラックなジョークがあったり、ラストのセリフも見る人によって解釈が異なるなど、劇中のあらゆる事象が見た人に多様な議論を促す作りにもなっているのです。しかも、問題点を並べるだけでなく、全ての「男らしさ」「女らしさ」に囚われている人にとっての福音ともいえるメッセージ性を備えており、その素晴らしさを称える人が多かったからこそ、さらなる共感を集めていったのではないでしょうか。
ちなみに、映画『バービー』は中国でも大ヒットしており、それは中国では男性が主人公の映画が多く、だからこそ女性が主体となりフェミニズムを打ち出した外国映画が貴重だったからなどと分析もされています。昨今では女性の連帯感やエンパワメントを主軸とした映画が一種のブームにもなっており、映画『バービー』がその「決定打」と認識されるほどの革新性があったからこそ、ここまで大ヒットになったのではないでしょうか。
映画『バービー』への反応そのものが、作品の“テーマ”に直結
実は、内容に対しての“批判的な声”も、映画『バービー』の大ヒットとっては大きなマイナスにはならない、むしろプラスになっていた側面もあると思います。事実、アメリカでは公開前から保守的な政治家やコメンテーターからの悪評、日本でも漫画『GANTZ』(集英社)の作者である奥浩哉のX(旧Twitter)での「男性を必要としない自立した女性のための映画。こんなの大ヒットするアメリカ大丈夫なの?」といった投稿に対して、批判が続出しました。
いわば、映画『バービー』への反応そのものが、「男性からの女性を見下す態度」であるマンスプレイニングや、旧態依然とした価値観を可視化するという構造もあり、それもまた話題につながり、「映画本編を見てこそ判断できる」理由にもなってとも考えられるのです。
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