総務省が問題視している点
総務省としては、ユーザーに十分に周知せずに韓国のNAVERにデータがわたることは問題であるとの認識だ。総務省関係者が匿名を条件に筆者に話したところによると、「今回の行政指導の裏には、2021年にLINEが中国子会社へ開発を委託していた件や、LINEのユーザーデータが知らぬ間に韓国NAVER側に保存されていたという記憶がある」という。
この発表は、またも日本人のデータがNAVERに渡っていたのか、という警鐘でもあるといえそうだ。
「LINE WORKS」のサーバはNAVER社製
さらに言えば、NAVERはもともとLINEの親会社であったが、現在もいろいろと関係は続いており、LINEのサービス開発には今もNAVERが関わっている。前出のLINE関係者に聞くと、LINEの人気サービスで、日本企業43万社が利用している「LINE WORKS」も、実は「LINE WORKSで使われているサーバは、NAVERのクラウドサーバです」と言う。
ちなみに、そのNAVERのクラウドサーバは、日本国内にあるようで、LINE WORKSのデータはすべて日本で保管していると説明している。さすがに今回はうそではないだろう。
新「LINEヤフー」に今後求められること
ただこれまでのLINEに関連した騒ぎと、今回の総務省による行政指導を受けたことを考えると、今後NAVERやLINEが絡む事業については、さらに信頼を回復するために透明性のある情報開示が必要になるだろう。
日本では、LINEの月間ユーザー数は9500万人(※2023年6月末時点)ともいわれている。ここまでの話からは少しずれるが、ユーザーを不安にさせないためLINEの安全性について少し言及しておきたい。
LINEのユーザー同士のメッセージ自体は、これがLINEの会社であろうが、韓国のNAVERであろうが、のぞき見ることはできない。「Letter Sealing(レターシーリング)」という技術でキーフィンガープリントという暗号キーを使った暗号化がなされているためだ。ただ誰が、何時に誰とやりとりしたのかについて、いわゆる「メタデータ」については分かるし、そうしたメッセージに付随するさまざまなデータをLINEは収集している。
LINEそしてYahoo! JAPANなども、もはや日本人の生活に欠かせないインフラになっている。それだけに、これからも国も関与して安全性と透明性の厳守を願うばかりである。
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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