ヒナタカの雑食系映画論 第28回

出演者の犯罪・不祥事で「映画が公開中止になる問題」を考える。「作品に罪はない」だけでいいのか

市川猿之助の逮捕の波紋が広がっています。このことに限らず、犯罪や不祥事による映画の公開中止・延期の判断がされることが多い今、その「線引き」がどこにあるのか、考えてみます。

出演者の違法薬物使用による判断の変化。線引きは「被害者の有無」か

一方で、線引きが変わりつつあると感じるのは、出演者の違法薬物使用による犯罪の場合です。

直近では、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』は公開前に出演者の永山絢斗が大麻取締法違反の容疑で逮捕されましたが、撮り直しや公開延期をすることはなく、予定通りの公開となりました。その判断に反対する意見はほとんど見られませんでしたし、影響をほぼ受けていないと思われるヒットを記録しています。
 

しかし、2019年にピエール瀧がコカインによる麻薬取締法違反容疑で逮捕された際には、映画『アナと雪の女王』シリーズでオラフ役声優の差し替え、映画『居眠り磐音』では代役を立てての再撮影、ゲーム『JUDGE EYES:死神の遺言』の一時的な販売自粛、差し替えといった対応がされました(ただし、映画『麻雀放浪記2020』や『宮本から君へ』は予定通り公開)。これらには、「過剰な反応である」という批判も多く見られました。

一方で、2020年に大麻取締法違反の容疑で逮捕された伊勢谷友介の出演作『とんかつDJアゲ太郎』や『るろうに剣心 最終章 The Final』は(新型コロナウイルスの流行による延期とは別に)予定通りの公開となりました。さらに、2024年3月に公開される映画『ペナルティループ』で、伊勢谷友介が復帰することも発表されています。

違法薬物の使用そのものは「被害者のいない」犯罪であるといえます。本人だけの責任である以上、多数のスタッフやキャストが一丸となって作り上げた映画を公開中止・延期する判断について、送り手も受け手も意識が変わりつつあると見受けられるのです。
 

業界における「経済損失の回避」が隠蔽体質を悪化させてきた?

犯罪や不祥事を理由に、作品や関係者を過剰に糾弾してしまう「キャンセルカルチャー」と、問題の矮小化や二次加害を防ぐための「作品の公開中止・延期」の線引きはどこにあるのか。その判断において、「被害者のことを第一に考える」ことこそが大きな論点になるでしょう。

もちろん、「作品には多数のスタッフとキャストが関わっていて、一丸となって作品を作っているのに、1人のせいで全てがなくなってしまう」「作品を楽しみにしている人もいる」ことも考えるべき事項ではありますが、一生にわたって苦しむこともある性加害・性暴力などとは、そもそも同じてんびんにかけるものではないでしょう。

また、自粛や公開中止・延期による、経済的な損失も計り知れません。そのことが、これまでの隠蔽(いんぺい)体質をむしろ悪化させてしまったのかもしれませんが、今後は犯罪の完全抑止につながるよう、業界全体が意識しなければならないと思います。


>次のページ:配信作品の場合には「過剰な自粛・封印」もまた問題に
 
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