ヒナタカの雑食系映画論 第28回

出演者の犯罪・不祥事で「映画が公開中止になる問題」を考える。「作品に罪はない」だけでいいのか

市川猿之助の逮捕の波紋が広がっています。このことに限らず、犯罪や不祥事による映画の公開中止・延期の判断がされることが多い今、その「線引き」がどこにあるのか、考えてみます。

市川猿之助(写真:Pasya/アフロ)

市川猿之助出演の映画『緊急取調室 THE FINAL』が公開延期となり、その後母親に続き父親への自殺ほう助の疑いで再逮捕。それを受け、企画・総合演出を務め、出演もしているスーパー歌舞伎セカンド『鬼滅の刃』も上演されない方向となるなど、波紋が広がっています。

このことに限らず、出演者や監督の不祥事により、映画やドラマが公開中止や延期、はたまた配信作品が停止になることは、よく議論になります。その“線引き”はどこでされるのか、これまでの事例を振り返って考えてみましょう。
 

性加害・性暴力を断固として許さない姿勢に

個人的にまず肯定したいのは、社会全体が「性加害・性暴力を断固として許さない」ようになってきたことです。

決定的だったのは、2022年に園子温と榊英雄という“映画監督による性加害”が相次いで明るみとなったことによる影響です。榊英雄の『蜜月』は公開中止となり、『ハザードランプ』は当初は予定通りの劇場公開を発表していたものの、その後に一転して「総意形成に至らなかった」ことを理由に公開中止を決定。園子温は、告発後に別名義で脚本を担当するという「ステルス復帰」でも猛批判を浴びました。

それ以前の事例を挙げると、2018年公開の『青の帰り道』は、高畑裕太が強姦致傷容疑で逮捕されたことで、7割ほどを撮り終えた段階で撮影中止に。しかし、代役を立てて撮り直し、ほぼ2年越しで執念の公開を実現しました。

2019年公開予定だった『善悪の屑』は、主演の新井浩文が強制性交容疑で逮捕されたため公開中止。そのほかの出演作『台風家族』は公開延期の末に3週間限定での公開となったものの、公式サイトに延期の発表から公開を決めるまでの経緯が記載されていました。

映画のほかにも、漫画『アクタージュact-age』(集英社)は原作者のマツキタツヤが2020年に強制わいせつ罪の疑いで逮捕されたため連載終了。新刊は発売中止となり、既刊も無期限の出荷停止となりました。
 

予定通り映画が公開されれば、「問題の矮小化」につながる可能性も

性犯罪者が関わっている作品が、予定通りに公開されたり、問題が明るみになった後にプロモーション活動を行ったりしてしまうと、問題の矮小(わいしょう)化や被害者への二次加害にもつながるでしょう。これらの公開中止・延期は正しい判断であると思います。

出演者の責任ではありませんし、現在は作品の自粛などの影響はほとんどありませんが、ジャニー喜多川による長年にわたる性加害問題は、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が調査することになり、国際問題にまで発展しています。

元映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの性加害が明るみになり、世界中で「#MeToo」運動が起こった2017年から6年。これからは、日本社会全体で性加害・性暴力を断固として許さない姿勢こそが、その抑止力にもなるはずです。


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