トランスジェンダーに対する理解を邪魔する、法律を悪用する人々
例えば「トイレ」の問題。トランスジェンダーの人たちが、生まれながらの遺伝子的な性別ではない性別のトイレを使用することへの是非(ぜひ)だ。アメリカでも何年も前から議論になっているが、これはトイレに限らず、更衣室や刑務所といった施設でも議論になってきた。
遺伝子学的にヒト(人間)は染色体によって男性(XY)と女性(XX)に区別され、性別となる(染色体から見ると女性なのに男性の身体的特徴をもつ子どもが誕生する非常にまれなケースもあるようだが、これは遺伝子レベルの変異である)。
ただ性別に違和感を持つと自認するトランスジェンダーの中には、遺伝子的に男性で外見も一般的な男性と変わらない成人が、女性と自称して女性用トイレや更衣室に入って問題になるケースが続発している。見た目は男性の特徴をもったままのトランスジェンダーが、女性用の施設などで女性に対して性的な事件を起こしているといったニュースが最近もいくつも報じられているのである。
人権を尊重するはずの法律を悪用する人が出ていて、そうしたケースがトランスジェンダーに対する理解を阻んでいる。
子どもとLGBTの関係
また別の議論には、子どもとLGBTの関係がある。2022年4月、アメリカ・フロリダ州で通称「Don’t Say Gay(ゲイと言うな)法」が施行されて、大きな話題になった。この法律を推し進めたのが、2024年アメリカ大統領選の共和党指名候補争いに出馬表明しているフロリダ州知事のロン・デサンティス氏だ。
この法律では、小学3年生までの児童に性的指向や性自認について学ぶ機会を与えないよう厳しく制限し、まだ物事の判断がきちんとできない児童を守ることを目的にしている。
また2023年4月には、やはりフロリダ州が、「Gender-affirming Health Care(ジェンダー肯定医療ケア)」を禁止する法律を可決。ジェンダー肯定医療ケアとは、個々のジェンダー自認を支持して肯定することを目的にし、社会的、心理的、行動的、医療的に介入(手助け)することを指す。
フロリダ州は、親が子どものためにこの福祉を利用することを禁止し、利用した場合は親権を剥奪することになった。要するに、カウンセリングや治療として子どもに性自認を迫ったり、ホルモン的な投薬や、性転換のような手術をしないよう定めている。
このように、アメリカでのLGBT問題は子どもまで巻き込んだ議論になっているのである。
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