ほぼ何も明かされていない、異例の作品『君たちはどう生きるか』
「予告編なし」「テレビスポットなし」「新聞広告なし」になるようで、現時点では本編の映像は1秒たりともメディアに出ていません。作画監督の本田雄以外のスタッフも、声の出演者の情報すら明かされていません。さらには(スタジオジブリ内のページはあっても)公式Webサイトもないという状態です。
分かっていることと言えば、1枚のポスタービジュアルと、タイトルが吉野源三郎による同名の小説から取られていること、一方で映画の内容はオリジナルで、ジャンルが「冒険活劇ファンタジー」であることくらい。超メジャー公開される国産アニメ映画で、公開1カ月前にここまで「何も分からない」というのは極めて異例の事態です。
誰もが気になるのが、この「宣伝をしない宣伝が成功するか否か」ということでしょう。先に結論を申し上げておくと、「映画史上かつてないギャンブルなので、どう転ぶか全く分からない」に尽きます。それでも過去の似た例を振り返りつつ、その理由を解説していきましょう。
『THE FIRST SLAM DUNK』は大ヒットしたものの、宣伝で一部炎上
直近で、宣伝がごく最小限ながら商業的に大成功をした映画といえば、まず『THE FIRST SLAM DUNK』が思い浮かぶでしょう。ストーリーの事前情報はほとんどなく、特報映像で断片的なことが分かるのみ。それが逆にファンからの議論を呼び、実際の本編でのサプライズにもなっていました。かつ公開直後から絶賛の声がSNSで寄せられたからこそ、大ヒットにつながったという見方もできます。
しかしながら、前売り券の販売の後のタイミングでの、以前のテレビアニメから声優が総入れ替えの発表が炎上してしまったこともあり、そもそもうまい宣伝手法ではないという声もあります。
商業的に成功したのは宣伝のあるなしではなく、やはり1996年に連載が終了しても今なお根強い『スラムダンク』の圧倒的なネームバリューと人気、原作者の井上雄彦が監督・脚本を務めたこと、それによる作品のクオリティがあってこその大成功ともいえるでしょう。
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