8:ミュージカル映画であり、ディズニー作品へのラブレター
本作の最大の特徴と言っても過言ではないのは、「ミュージカル映画」でもあること。女子高生AIは、なぜか勝手に歌って踊るのですが、メロディアスな楽曲それぞれと、土屋太鳳さんの見事な歌声もあって、ディズニー作品のミュージカルアニメ映画に匹敵するクオリティになっています。「雨が降りしきる中での告白」や、中盤の「ジャズ柔道」のアイデアと作り込まれたアニメの動きもそのものも面白いですし、さらに「ディズニー作品へのラブレター」と言うべき「仕掛け」が施されていました。
どのような仕掛けなのかは、これから見る人のために秘密にしておきます。しかし、「幼い頃からディズニー作品に親しんでいた人には号泣ものの感動がある」ことだけは断言しておきましょう。特に『アナと雪の女王』が好きな人には、さらに「納得できる」理由があると思います。
9:『水星の魔女』との共通点がたくさん!
現在、テレビアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(MBS/TBS系)が放送されるたびにTwitterのトレンドを席巻するなど、大いに話題となっています。実は『水星の魔女』でシリーズ構成および脚本を手掛けた大河内一楼氏が、『アイの歌声を聴かせて』の共同脚本を担当しており、「キャラクターそれぞれ関係性が尊い」「物語の中心にロボットがいる学園ドラマ」「子どもと大人の対立が描かれる」など共通点が多く見受けられるのです。
また、『水星の魔女』は視聴者を絶望の淵にまで追い詰める最悪の展開(褒め言葉)や、子どもを苦しめる「毒親」の描写のしんどさ(褒め言葉)も話題になりました。
『アイの歌声を聴かせて』でのAIの開発者であるシングルマザーの、(普段は仕事をとても頑張っている、良いお母さんにも思えるからこそ)あるポイントでの言動のまずさ、だからこそ絶望に満ち満ちた展開も負けてはいません。筆者も良い意味で、見るたびに「このお母さんは本当によくない!」と説教をしたくなります。
しかしながら、『水星の魔女』も『アイの歌声を聴かせて』も、「感情移入の余地のない毒親というだけではない、彼ら彼女なりに子どもを気にかけていて、愛してもいる」「そうなるだけの理由がある」描写にもなっています。
極端ではありつつも解像度が高い「毒親スレスレだけど、それだけではない」「嫌いにはなれない」キャラクターの奥行きにも注目してほしいです。
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