6:若者それぞれの切実な悩みも描かれる学園青春コメディー
さらに、本作は若者にこそ見てほしい「学園青春コメディ」でもあります。しかも、個性豊かな高校生たちが全員が魅力的で、かつ彼ら彼女らの悩みが真摯(しんし)に描かれてもいるのです。優等生だけど孤独を深めてしまった主人公、心優しいオタクの男の子、なんでも言いたいことを言ってしまう女の子、何事にも夢中になれないイケメン、その正反対の一生懸命な柔道部の男の子。それぞれが多層的な内面を持っており、物語を追うごとに「なんて良い子たちなんだ!」と思えてきます。
「1つの映画の中で、これほどまでに登場人物みんなが大好きになれることは、もう2度とない」と言い切れるほどです。
それぞれの悩みや葛藤は切実ではありますが、基本的には「転校生がAIだとバレないようにみんなで頑張ろう!」とクスクス笑えるシチュエーションの中で、少しずつ解消していくところも見どころ。
特に主人公の女の子が言う、「(心の)傷口」についてのメッセージは、今まさに学校生活を送っている若い人にとって金言にもなり得るでしょう。そのほか、後述するシングルマザーや、意外に正論を言っている悪役のキャラクターに、思い入れができる大人もいるはずです。
7:AIの未来への可能性と希望を描いている
昨今ではChatGTPやイラスト生成などで、AIの「功罪」が話題となっています。便利なツールであると割り切れる人ももちろんいますが、人間の仕事を奪うのではないか、それ以外でもさまざまな問題が浮上するといった危惧を抱かれていることも少なくはありません。これまでのSF作品の多くで、AIはやはり人間の脅威や敵として描かれることも多くありました。『ターミネーター』や『マトリックス』はその代表でしょう。
もちろん、そうした作品が悪いというわけではありませんが、この『アイの歌声を聴かせて』は、友達になれるAIの物語を通じて、本当に「AIがこうした大切な存在になっていくかもしれない」未来への可能性と希望を抱かせるのです。
それでいて、むやみやたらにAIを持ち上げるだけではなく、AIが「怖いかもしれないよ」と、本当にゾッとするホラー描写も交えて表現されていることも魅力になっています(加えて、後述するシングルマザーにまつわるとあるシーンも、良い意味でめちゃくちゃ怖い)。
ChatGTPなどのAIを今まさに使っている、もしくはその扱いにモヤモヤしている人が見ればこそ、AIについて真摯に向き合った作品であることが分かるはずです。
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