元サッカー日本代表の佐藤寿人には、21歳のときに結婚した妻との間に3人の息子がいる。大学2年生の長男を筆頭に、高校2年生の次男、そして少し年の離れた三男は、まだ小学2年生だ。
サッカー選手の子どもが、必ずしも父親と同じ道に進むとは限らないし、意外にそれは珍しいケースかもしれない。そう考えると、寿人家はまさにサッカー一家。現在、長男は関西学生リーグ1部の大阪経済大学でプレーするアタッカーで、次男は兄と同じ大阪の強豪・興國高校に進学し、ゴールキーパーを務めている。そして三男も、今は日本代表の三笘薫に夢中――髪形もまねをしているそうだ――という未来のフットボーラーだ。
では、自身が両親の深い愛情を受けて育ち、日本を代表するストライカーにまで上り詰めた佐藤寿人は、3人の子どもたちをどのような教育方針の下で育ててきたのだろうか。そして、自分と同じようなトップアスリートになってほしいとの願望はあるのだろうか。
2020年限りで現役を引退後は、サッカー解説者として引っ張りだこの彼に、「子育て論」を語ってもらった。
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子育てで1番大事にしているのは「あいさつ」
現在、佐藤寿人の自宅は、現役時代に12年間にわたって在籍したサンフレッチェ広島のホームタウン、広島市にある。寿人は埼玉、妻は千葉の出身だが、愛着のあるこの街にすっかり根を下ろしてしまったようだ。もっとも、大学生の長男は大阪で1人暮らし、高校生の次男も寮生活で実家を離れている。そして寿人自身も――。
「選手時代って、キャンプや代表活動を除くと、意外と家にいる時間が長かったんです。むしろ引退してからの方が東京での仕事が多くて、広島になかなか帰れないんですよ(笑)。甘えたい盛りの三男は、僕が久しぶりに帰るとべったり。ちょっと寂しい思いをさせているかもしれませんね」
上の2人の子と三男では、やはり子育ての仕方も多少異なるようだ。
「子育てで1番大事にしたのは、当たり前ですがあいさつ。おはよう、おやすみなさいはもちろん、例えばどこかで外食したときに、お店の人に『ごちそうさまでした、ありがとうございます』と言える子に育てたつもりです。それ以外はそんなに口うるさく言っていないつもりですが、ただ長男には、ちょっと厳しく接しているかもしれませんね」
足りない環境を与える――それが佐藤家の教育方針
厳しく当たるのは、もうすぐ社会に出て行く息子の自立心を養いたいからだ。「ある程度の年齢になれば、なんでもかんでも親が助言したり、環境を整えてあげることが、子どもにとってベストだとは思いません。社会に出れば、全てを自分で決めて、自分で責任を負って生きていかなくてはなりませんからね。だから、あえて少し足りない環境、本人が考え、工夫しなくてはならない環境を与えることで、精神的なタフさみたいなものを身に付けてほしいんです」
1人暮らしの長男には、家賃の援助はする。しかし、例えば光熱費は自分で払わせる。そうすれば、いかにして光熱費を節約するかを自分で考えるようになるからだ。良い環境を与えてやろうと思えば、いくらでもできる。だが、それでは本人のためにはならないというのが、寿人の考え方だ。
足りない環境を与える――。それは寿人の教育方針の根幹なのかもしれない。
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