恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」 第61回

JR九州で活躍中“現役最古”の人気SLが引退を表明、修復作業の困難さが理由

JR九州の「SL人吉」牽引機として知られるハチロク。大正11(1922)年11月18日生まれなので、まもなく100歳の誕生日を迎える。しかし、寄る年波には勝てず、2024年3月での引退が公表された。2度の復活という数奇な運命をたどったSLについて振り返っておこう。

奇跡の再復活

豪雨で流失した第二球磨川橋梁を渡る「SL人吉」(筆者撮影)

ところが、奇跡が起こり、2007年から再度の修復工事を開始。欠陥のあった台枠を新製するなど4億円を投じて2回目の復活を遂げた。2009年4月から、新たに「SL人吉」として懐かしの肥薩線での運行を再開した(熊本~人吉)。最長老の機関車ではあるが、1988年の復活時には、ボイラーや運転室を新製しているので、実質は年齢以上に若い車両であり、JR他社のD51やC57よりも元気であると言われたこともある。
 

2020年7月に発生した豪雨の影響で肥薩線は甚大な影響を受け、橋梁が流失するなどして、不通となり、復旧の見通しが立たず、「SL人吉」の運行は中止となっている。折からコロナ禍の影響もあり、運転本数は少ないものの、鹿児島本線において臨時列車「SL鬼滅の刃」などの運転を行うなどイベント運転に工夫の跡が見られる。
 

ハチロクの現況

人吉機関区の転車台に載るハチロク。機関区のご厚意で建物2階から撮影できた(2009年10月)

しかし近年、部品の不具合が目立つようになり、綱渡り的な運行で気を揉むような状況だという。2回の大手術で若返ったが、全体としては車両の老朽化が進んでいるためであろう。部品の取り替えなどを進めているものの、年々調達は困難を極めるようになった。台枠など主要部分の設計図はあるが、細部の部品に関しては不明の点もあり、新製も困難になりつつある。
 

2007年からの修復工事においては、OBに依頼して作業を行ったが、時代の流れとともに、OBの数も激減し、技術者集めなどにも苦労しているようだ。また、1両しかない蒸気機関車であるがゆえに、わざわざ、ごくまれの作業のためだけに人を集めるのも大変だという。特殊な古い機関車でもあり、複数の蒸気機関車を保有する鉄道会社の修復作業とは別の意味での困難さが生じている。
 

>次ページ:100歳の誕生イベントと引退発表
 

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