世界を知れば日本が見える 第5回

なぜ日本が標的に? ロシア系のサイバー攻撃集団「Killnet」の目的とは

行政情報のポータルサイトやニコニコ動画、東京メトロなども標的となった今回の攻撃。一体何が起きているのか、イチから解説していく。

今後攻撃が増える可能性も

日本への攻撃がまた起きる可能性は(画像はイメージ)

今回のロシアによるウクライナ侵攻では、民間のサイバー攻撃集団が、ウクライナ支持グループとロシア支持グループに分かれてサイバー空間で「参戦」している。9月初めの時点で、その数は83集団にも上り、ウクライナ側は35集団、ロシア側は43集団となっている。立場が不明な集団も5つある。こうしたグループの中には、政府の情報機関や軍のサイバー部隊が関与しているとされる集団もいる。
 

数多くの集団がいる中で、ロシアに厳しい姿勢で臨んでいる日本への攻撃がこれまでなかったことのほうが意外だと言っていい。そしてこれからも、おそらくウクライナでの紛争が終わった後も、キルネットのような集団からの攻撃が増える可能性は想定しておく必要があるだろう。
 

米Mandiant(マンディアント)の脅威インテリジェンス分析担当バイス・プレジデントであるジョン・ハルクイスト氏は、今回の攻撃について、「ウクライナ紛争に起因する、定期的かつ破壊的なサイバー攻撃の対象は、ウクライナ周辺地域に限定されるものではありません。これらの攻撃は、ウクライナを支持しているという理由で、世界中の国を標的に実行されます」と述べている。
 

日本では2022年4月から、警察庁がサイバー警察局を設置し、初めて都道府県警察を超えた全国的な捜査をサイバー分野で行えるようになった。これまで警察庁は法執行の権限を持っていなかったので、大きな進展だと言える。国際的な協力もこれまで以上にやりやすくなる。しかも、同局ではサイバー特別捜査隊も発足しているので、今回のような国家を狙った攻撃には徹底して対処することが期待される。
 

有事の際にはこうしたサイバー空間での活動が活発になる。日本も準備を進めておいた方がいいだろう。



山田敏弘プロフィール
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル



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