アメリカが潜っていく闇
中絶容認は「負け」、今後南部のいくつかの州において中絶は犯罪になる。米国の中絶の主流は日本で行われる掻爬ではなく中絶ピルの使用だが、その処方と使用は禁止され、履歴が暴かれれば犯罪が立証される。妊娠を他人に明らかにせず、秘密裏に個人的に堕胎するというやり方へ潜っていくだろう。
アメリカ女性の間では今後の自分たちの身を護る策として「そもそも妊娠しない(させられない)権利」や、避妊すら問題視されるようになるのならば「そもそも物理的にセックスしない権利」も囁かれる。メタバース的世界のお出ましだ。また、「出産前中絶(pre-birth abortion)」が認められないのなら「出産後(post-birth abortion)だ」、などというブラックジョークもネットでバズっている。そもそも国民皆保険でないアメリカでは、低所得層に医療保険のない人々が多く、良質な医療へのアクセスが手薄だ。生活苦で子どもを産んだとて、育てきれないじゃないかという、暗い笑いである。昨今多発する学校での銃乱射事件や、若年層のドラッグの乱用なども、せっかく生まれた子どもたちが「大人が与えるもの」によって命を落としていく姿である。
アメリカという国は、かくも醜い自己矛盾を抱えながら、だがそんな自分たちを(まだ)世界の正義だ、(まだ)自由の国なんだと酔う、世界最大のひとりよがりな田舎者たちの国、という不名誉極まりない印象を、さらに深く世界に対して刻んでしまったのである。
河崎 環プロフィール
コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど幅広い分野で多くの記事やコラムを連載・執筆。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌など多数寄稿。2019年より立教大学社会学部兼任講師。著書に『女子の生き様は顔に出る』『オタク中年女子のすすめ~#40女よ大志を抱け』(いずれもプレジデント社)。
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