「毎日かあさん」西原理恵子さんの娘による”毒親告発”で、日本の子育てSNS界隈が凍りついた件

大ヒット子育てエッセイ漫画『毎日かあさん』(毎日新聞出版)。作中に「ぴよ美」として登場していた、作者である漫画家・西原理恵子さんの娘による告白が波紋を呼びました。その背景と影響をコラムニスト・河崎環さんが語ります。

 

「お母さんは、私が泣いて嫌がっても作品に描いた」

おそらく、日本の子育てエッセイ漫画の唯一にして無二の巨星であり、2010年代を代表する国民的大ヒットを遂げた『毎日かあさん』(毎日新聞出版)。毎日新聞紙上での15年の長期連載は子育て真っ只中にあった日本中の母たちから涙ながらの共感をさらい、「卒母」という印象的な言葉とともに終了したのは、今からちょうど5年前の2017年6月26日のことだった。
 

作者である漫画家の西原理恵子さんは、連載終了を前に、当時こんなコメントを残している。「娘が16歳になり、経済的支援以外、お母さんとしての役割は終わった」「子育て終わり、お母さん卒業、各自解散(笑)」。だが、そのモデルとなった家庭の実像は、漫画通りの面白おかしく切なくのどかな姿などしていなかったのだと、私たちは知ることとなった。
 

作中では「ぴよ美」と呼ばれ、幼い頃からファンにその成長を見守られてきた西原さんの娘が、これまで非公開だった実名ツイッターアカウントとブログを公開した。母による精神的・身体的「虐待」、いじめ、登校困難、整形やリストカット、精神科への通院、1人暮らしとアルバイト生活、15年前に他界した父の名字へ改名した事実などを彼女の視点から告白し、「お母さんは、私が泣いて嫌がっても作品に描いた」「なぜ書いて欲しくないと言ったのに、私の個人情報を世間へ向けて書き続けたのか」と母を責めた内容が明るみに出たのである。
 

それまで、『毎日かあさん』後半では母である西原さんのユーモラスな筆致によって「反抗期」「口もきいてくれなくなった」と描かれるままに、あのぴよ美ちゃんも大きくなって、と無邪気に受け止めていたファンにはショッキングなニュースであり、先週のSNSはその話題で大荒れに荒れた。そして「子どものプライバシーを、親がSNSなどで公開する罪」について、皆が一斉に考えた。
 

西原さんは、無頼派の麻雀漫画『まあじゃんほうろうき』やバブル期のグルメ文化を毒っ気たっぷりにちゃかした『恨ミシュラン』、アダルトな話題たっぷりの『できるかな』、元夫で戦場ジャーナリストであった故・鴨志田穣さんと世界各地を回った『鳥頭紀行』、リリカルな絵本『いけちゃんとぼく』、半自伝的な金銭哲学の『この世でいちばん大事な「カネ」の話』など多数の著作を持ち、エッセイ漫画作家として、また一時期は講演やテレビ番組でも活躍。近年は、「Yes、高須クリニック!」の国民的整形外科医ともいえる高須克弥氏と事実婚関係にあることでも知られている。
 

『毎日かあさん』は彼女の漫画家キャリアの中でも出色の代表作であり、アニメ化や映画化に加え、文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞、手塚治虫文化賞短編賞、日本漫画家協会賞参議院議長賞などの大きな賞はこの作品で授与された。国民的な人気と影響力を持つ作品であっただけに、実の娘による暗い告発が社会へ与えた衝撃は、決して小さくなどなかった。
 


>次ページ:「西原理恵子」という作家が2000年代以降の女性に与えた影響
 


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