芦野公園駅の情景
津軽鉄道の芦野公園駅も太宰治ゆかりの地の1つだ。小説『津軽』の中では、「芦野公園といふ踏切番の小屋くらゐの小さい駅」と紹介している。郷里の金木の町長が東京からの帰りに上野で芦野公園の切符を求めたところ、そんな駅はないと言われたので憤然して駅員に時間をかけて調べさせとうとう切符を買うことができたという逸話も得意げに語っていて面白い。さらに太宰が車内から見ていると、若い娘がやっとのことで列車に乗り込む様子も活き活きと書かれていて臨場感に富んでいる。
現在は無人駅となった駅舎の隣には旧駅舎が残っている。太宰の頃の駅舎で、登録有形文化財に指定され、建物内は「駅舎」という喫茶店として旅行者に親しまれている。
五能線の車窓から
小説「津軽」では、五能線の列車に乗車して、五所川原から木造で途中下車して、深浦へ。一泊して、鰺ヶ沢に立ち寄った後、五所川原に戻り、津軽鉄道に乗り換えて次の目的地に向かっている。
五能線の車窓については、かなり詳細に記述していて、とりわけ奇勝地・千畳敷については実に巧みに活写している。この部分については、千畳敷の現地に文学碑として、かなりの長文のまま転載されていて興味深い。
「……それから列車は日本海岸に沿うて走り、……この辺の岩石は、すべて角稜質凝灰岩とかいふものださうで、その海蝕を受けて平坦になった斑緑色の岩盤が江戸時代の末期にお化けみたいに海上に露出して、数百人の宴会を海浜に於いて催す事が出来るほどのお座敷になったので、これを千畳敷と名附け、……」