「毎日かあさん」西原理恵子さんの娘による”毒親告発”で、日本の子育てSNS界隈が凍りついた件

大ヒット子育てエッセイ漫画『毎日かあさん』(毎日新聞出版)。作中に「ぴよ美」として登場していた、作者である漫画家・西原理恵子さんの娘による告白が波紋を呼びました。その背景と影響をコラムニスト・河崎環さんが語ります。

「子どもが親に勝手にその成長をSNSに投稿されない自由」も?

西原さんの娘が公開したブログを知ったネットユーザーは、西原さんや娘にどういう感情を持っていようと関係なく、「いったい、自分の知らない何が書かれているのか」と好奇心からブログに殺到した。私を含め、『毎日かあさん』を読んできた読者はそれぞれに「◯◯年にはこういうことがあった」「こういう母だった」「こういう子だった」「だからこんなことが起こった」と答え合わせをした。
 

だが、ふと気づく。本人と会ったこともない無数の読者が、ネットでああでもないこうでもないと、勝手に「心配」「ジャッジ」する。そんなことがなぜ可能なのか。それは、母の作品という形で、「おかしゃん」と母サイバラに笑顔を向け、「おかしゃん、どこー」と母を求めて泣く幼少期の彼女について描かれ著述された材料が、確かに世間のあちこちに散らばっているからだ。
 

実際、私たちは西原さんの娘のことを知りすぎている。彼女は私たちのことを何も知らないのに。
 

「新聞や雑誌に、自分のことが描かれている」「周りの大人が、みんな自分のことを知っている」「そのせいで、友達にからかわれたりいじめられたりする」。そのアンバランスすぎる非対称は、幼い少女にとって恐怖だっただろうと、ようやく気づくのである。私たちは彼女が抱える恐怖や葛藤に気づかなかった。サイバラ家は、みんなそれを受け入れて楽しく暮らしているのだろうと思っていた。私たちは、西原さんが描くままにのんびりとおかしく豊かなサイバラ家の日々を消費し続けたのだ。
 

西原さんのケースに限らない。「息子愛」「娘愛」から、無邪気すぎる親のフィルターを通して世間へ共有された子ども本人のプライバシーについて、日本は今考え始めている。「子どもが了承したから大丈夫」? そもそも親と子どもの関係には力学的な傾斜があるのに、その潜在的な暴力性を自覚しない親が子どもから一方的に調達した「了承」はどれほど信頼に足るものだろう? 本当の物語は、子どもの中にだけずっと流れている。今後のネット社会では「子どもが親に勝手にその成長をSNSに投稿されない自由」というのも、議題に上がってくるのかもしれない。
 

河崎 環プロフィール
コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど幅広い分野で多くの記事やコラムを連載・執筆。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌など多数寄稿。2019年より立教大学社会学部兼任講師。著書に『女子の生き様は顔に出る』『オタク中年女子のすすめ~#40女よ大志を抱け』(いずれもプレジデント社)。

 

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