松たか子主演映画『ナギダイアリー』が“不穏エンタメ”である理由。なぜ「凪」の日常がスリリングなのか
『ナギダイアリー』は大きな事件が立て続けに起きたりはしない、タイトルさながらの「凪」の状態が続く内容ながら、とてもスリリングで面白い映画でした。その理由を解説しましょう。(※画像出典:(C) 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.)
『ナギダイアリー』 9月25日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース ほか全国ロードショー (C) 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
9月25日より、松たか子主演、石橋静河と松山ケンイチが共演した映画『ナギダイアリー』が劇場公開中です。監督は『淵に立つ』や『LOVE LIFE』などで国際的に高い評価を得る深田晃司。そうした布陣から、まずは「間違いない」映画と言えるでしょう。
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タイトルの「ナギ」は「凪」を意味しているように思えるけど……
舞台のモデルかつロケ地になっているのは、岡山県北東部にある「奈義(なぎ)」町。深田晃司監督は、その奈義町に10カ月近く滞在して、そこで暮らす人々に取材をしつつ脚本を練り上げたそうです。
(C) 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
だからこそ、登場人物が「そこでずっと生活していた人たち」としか思えないほどのリアリズムが大きな見どころになっていました。
そして、タイトルの「ナギ」が示していると思しきものはもう1つ、これまで吹いていた風がやんでいる状態、はたまた波がおだやかになることを指す「凪」があります。
本編では現在進行形での物語でも、語られる過去の選択においても、
まさに凪のように「穏やかな状態が続く」「波風を立てないようにする」ような印象があるのですが……それこそが「スリリングさ」につながっていることが重要でした。
なぜなら、会話の端々から「ひょっとして……?」と想像がかき立てられ、「凪の状態がいつしか“荒波”になってしまうのでは?」とハラハラできるからです。
内容は会話劇が主体で、大きな事件が立て続けに起きたりはしない、悪い言い方をすれば地味な内容とさえ思えるのに、「それでも映画は、こんなにも面白いんだ」と再発見できる作品だったのです。では本編の内容に触れつつ、さらなる魅力を紹介しましょう。
※以下、『ナギダイアリー』の決定的なネタバレは避けつつ、一部内容に触れています。
土手焼きが「クセになりそう」なのも怖い「不穏なエンタメ」だった
あらすじを紹介しましょう。自然豊かな町「ナギ」で酪農をしつつ彫刻家として創作を続けていた寄子(松たか子)のもとに、弟の元妻で建築家の友梨(石橋静河)が休暇をとって東京から訪れます。友梨は9日間にわたって、若くして妻を亡くした役所勤めの好浩(松山ケンイチ)や、その息子である中学生の春樹、その親友の圭太と交流をするのですが……。
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つまり、
寄子と友梨は義理の“元姉妹”。自身の弟が離婚した相手となれば、ギクシャクしたり、はたまた2度と会うことはない、ということもありそうなものですが、本作の彼女たちはとても仲良し。それどころか、「趣味悪い」「そうなの、私、悪趣味なの」などと、お互いに「なんでも言い合える」関係なのです。
しかしながら、どことなく“不穏さ”も見えてきます。具体的な言動はここでは書かないでおきますが、「そんなこと言っちゃうんだ」「良い人だと思うんだけどさすがにそれは……」と、本当にハラハラしてしまうセリフが飛び出したり、あるいは“事実”が明らかになるのです。
(C) 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
会話だけでなく、劇中のモチーフからも「あ、これは怖いかも……」と思える描写があります。例えば、寄子が創作する彫刻にしたって、「鋭利な刃物を使って既存のものを削り取る」ものであり、なんなら「取り返しのつかないこと」を象徴しているように見えるのです。
さらに、川の土手の枯れ草や雑草を焼き払う土手焼き(野焼き)に参加した寄子が、「クセになりそう」と言うことにもドキッとします。陸上自衛隊の駐屯地が近くにあるために「実弾射撃訓練の音」が聞こえてくることも、意味深に感じられるでしょう。
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寄子役の松たか子が「サバサバした気の良い女性」に思えるからこそ、その「隠された気持ち」をより想像できて、やはり怖くも映るのかもしれません。
さらに、個人的には、好浩がとある理由で「気持ち悪いですよね」と自虐的に言う場面で、「うん、ごめん、めちゃくちゃ気持ち悪いよ!」と正直に思ってしまいました。それでいて、松山ケンイチが演じてこその不器用さや実直さも伝わるので、どうしても嫌いになれないのも絶妙な塩梅でした。
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はたまた、終盤にはっきりと口に出される「ずるい」という言葉から、小津安二郎監督の名作映画『東京物語』も連想しました。
映画、もっと言えば物語は「正しいことだけを描くわけではない」、なんなら人間のずるさや間違いもはっきり描くからこそ、共感できて入り込めるということも再確認できました。
そのように、不穏さがそこかしこに顔を出しつつも、それでも事件がほとんど起きないように思われた「凪」の先に、はっきりと「大きな迷いからの決断と、それに関わる事件」も起きてしまいます。その過程がやはりスリリングで面白い、「不穏なエンタメ」になっているのが、この『ナギダイアリー』なのです。