新しいことを始めたいのに、「失敗したら恥ずかしい」「準備が足りない」と考えているうちに、気がつくと何も始まっていない——。仕事で結果を出してきた人ほど「できる自分」に縛られ、「いまさら初心者になりたくない」と身動きが取れなくなるケースが少なくありません。
実業家・著述家の本田直之さんが提案するのは、未完成のまま小さく試し、反応を見ながら修正していく「β版思考」です。
この記事では、本田さんの著書『セカンドハーフ戦略 人生後半戦、何を捨て、何を始めるか』(KADOKAWA)より一部抜粋し、50代から新しいことを始めるために必要な「β版思考」と発想の切り替え方を紹介します。
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「失敗したら恥ずかしい」で、何も始められない
使わない力は錆びる。脳も、好奇心も、初心者でいる力も。動かさなければ、動けなくなる。
問題はここにある。
頭ではわかっていても、人はなかなか始められない。新しいことをやったほうがいい。それはわかっている。でも、実際には止まる。失敗したらどうするのか。続かなかったら恥ずかしい。準備が足りない。
そう考えているうちに、半年が過ぎる。1年が過ぎる。気がつくと、何も始まっていない。
これは意志が弱いからではない。
むしろ長く結果を出してきた人ほど、新しいことを始めるハードルは高くなる。なぜなら、ある程度「できる自分」で生きてきたからだ。
いまさら初心者になりたくない。できない自分を見せたくない。間違いを指摘されたくない。人から「それ、何の意味があるの」と言われたくない。
でも、そこで止まってしまうと、人生後半はどんどん狭くなる。
新しいことは「実験」でいい
必要なのは、巨大な決断ではない。人生を賭けた挑戦でもない。もっと軽く考えていいのだと思う。
新しいことは、実験でいい。
僕はこれを、「β版思考」と呼んでいる。完成してから始めるのではなく、未完成のまま小さく試し、反応を見ながら直していく考え方だ。
セカンドハーフ戦略──ハーフタイムシフトで描いた設計図を動かすこと──は、このβ版思考から始まる。大きな決断ではなく、小さな実験から。
※「ハーフタイムシフト」とは、前半戦の勝ち方をそのまま延長するのではなく、一度立ち止まり、人生後半に合わせて戦い方を組み直すこと(編集部注)。
向いているかどうかも、意味があるかどうかも、始める前にはわからない。まず小さく出して、違ったら直す。合わなければやめる。面白ければ続ける。
そう思えるようになるだけで、新しいことへのハードルはかなり下がる。
「完成してから」では遅い
米国留学から戻り、僕は日本オラクルのネットワークコンピューティング事業部に所属していた。創業者のラリー・エリソンが掲げた「クラウドの原型」とも言えるビジョンを、最前線で扱う部署だった。
社内には、こんな空気があった。
「まだ何もないのに、本当に出すのか」
オラクル・オープンワールドの発表では、プロダクトはほぼ存在しなかった。デモ機でさえ、まともに動かないことがあった。しかも当時回線は細かった。信じられないかもしれないが、画像1枚を表示するのに十数秒。動画など論外。文字がようやく見られた時代だ。
そんな時代に、ネットワークを通じてコンピュータを使うという、クラウドの原型のようなビジョンを打ち出していた。
日本企業の常識で言えば、完成していないものを発表するのは危うい。恥ずかしい。無責任に見える。でも、当時のシリコンバレー的な発想はかなり違っていた。
まず旗を立てる。詳細はあとで詰める。市場に出す。反応を見る。走りながら直す。
最初は乱暴に見えた。正直、かなり乱暴だったと思う。でも、あとになってわかった。変化の速い世界では、そのほうが強いのだ。
完成を待っている間に、世界は変わる。競合も動く。ユーザーの使い方も変わる。だったら、完璧なものを机の上で作り込むより、未完成でも出して、現実の反応を見ながら進化させたほうがいい。
この発想が、僕の中で少しずつ腑に落ちていった。
正解が見えるまで動かないのではなく、動きながら正解を作っていく。
これはITビジネスだけの話ではなかった。人生そのものに通じる原則だった。ただ、僕がそれに気づくのには3年かかった。



