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残された人生をストレスなく生きる方法
2015年4月から7月にかけて、私は同志社大学で講義をした。この際、自分に用事がないときは、講義後も学生たちとレストランで話をした……午後11時ごろまで。かなり密度の濃い講義だった。講義では、同志社大学の創設者である新島襄(にいじまじょう)について、『新島襄自伝』『新島襄の手紙』『新島襄 教育宗教論集』の三部作(岩波文庫)を手掛かりに、キリスト教主義の特徴をつかむことに主眼を置いた。
神学部の教授会に頼んで、能力が高く意欲のある神学生を選抜してもらったのだが、過半数がキリスト教の洗礼を受けていない。したがって、卒業後は一般企業に就職することを望んでいる人たちだった。
ただ、講義のなかで小テストを数回おこなったが、驚いたのは、私が神学生だったころと比較して、神学生の基礎学力が向上していることだ。予備校のデータを見ても、神学部の偏差値は10以上も上がっていた。勉強の要領が良く、加えて向上心のある学生が多くなったと実感した。
ただし、人生の今後の展望については、「年収1000万円以上の職業に就きたい」「安定した職業の公務員になりたい」などという発想しか持っていない……そこで途中から、「新島襄の生き方を各人の人生にどう活かせるか」、そこに重点を置いて講義をした。
国禁を犯し、死刑になることを恐れず、江戸末期に出国した新島襄は、アメリカ留学中は勉強に苦労した。だから、自分がしたような苦労を次世代の日本人にはさせたくないと考え、大学を創ることにした。そのためか、現存する新島襄の手紙のほとんどは、寄付金を求めるものだ。
そうして建学の精神を、「国家に有為な人材の育成」ではなく、「良心」とした。良心を基準にして生きる人は、他者の気持ちになって働き、利他的な行動をすることもできるからだ。
すると、こうした他者に献身的な行動をする人間が、さらに他者を感化する。良心を基準に日本社会を強化すれば、日本国家も強くなる。「新島襄を通じて、自分のためだけでなく他者のためにも尽くす人生が、結果的に本人にとってもべストになるという人生観を学んでほしい」、そう受講生に伝えた。
定年後の人たちに望まれていることは、このような行いではないだろうか? 私の講義が、たとえ少数だとしても、その人たちの心のなかに残っていてくれたとすれば、それこそ私の本望である。
こうしたことからも、定年後の人たちは、嫌いな人たちにまで交友範囲を広げて、それを維持する必要はない。残された人生の時間を、良心に従い、ストレスなく生きることに集中すべきなのだ。 佐藤優(さとう まさる)
1960年、東京都生まれ、同志社大学神学部卒、同志社大学大学院神学研究科修了(神学修士)。1985年に外務省入省。英国の陸軍語学学校でロシア語を学び、その後、モスクワの日本国大使館、東京の外務省国際情報局に勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、東京地検特捜部に逮捕、起訴され、無罪主張をし、争うも2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠』『自壊する帝国』『交渉術』などの作品がある。



