再生回数を左右する「スミン」、再生数稼ぎを巡る光と影
矢野:先ほど「ストリーミング重視の音楽番組が多い」という話が出ましたが、気になるのが「スミン」という言葉。ストリーミングサービスの数字を左右し、音源チャートを動かす重要な“推し活”だと聞いています。
ゆりこ:そのまんま「ストリーミング」の略で、ファンが必死に各音源サイトの再生回数を回す行為です。YouTubeなどでMVの再生回数を伸ばそうとする行為は「ミュス(ミュージックビデオストリーミングの略)」と呼ばれますが、今回「スミン」でまとめて話します。
矢野:それって、ファンの皆さんは寝ずに再生し続けているのでしょうか、それとも何か……。
ゆりこ:基本になっているのは「総攻撃(총공/チョンゴン)」と呼ばれる、時間を決めて一斉にストリーミングする組織的な応援活動です。フォロワーの多いファンアカウントが「〇〇時〇〇分から〇〇時間、このプレイリストを再生してください」という“スミンリスト”を作って、SNSやファンコミュニティーで共有するんです。実際に不眠不休で聞き続けているというより、通勤・通学中や作業中の“ながら再生”を積み重ねていく感じです。ただし単純に同じ曲をリピートすればいいわけではなくて、機械的な再生と見なされて集計から弾かれないよう、該当曲ではない曲を挟んだプレイリストを何種類も作って回すのが基本。しかも韓国の音源サイトは、1つのIDが同じ曲を何回聞いてもチャートには限られた回数しか反映されない仕組みなので、複数の端末やアカウントを用意するファンもいます。かなり緻密な作戦なんですよ。曲がリリースされる瞬間から数週間、チャートの集計タイミングに合わせて計画的に動く。ファンにとっては半分「ミッション」のような感覚だと思います。
(※手法やルールには、ファンダムや個人差があります。上記は一例です。)
(※複数アカウントの利用は各サービスの利用規約に抵触するリスクがあり、過度なものは不正行為と見なされる可能性もあるため注意が必要です。)
矢野:えっ、すごい……。想像していたよりもはるかに綿密で、かつ複雑でびっくり。そこまで組織化されているとは知りませんでした。ただ、それだけ真剣に取り組んでいると、外から見たときに「本当に熱心なファンがやっていること」なのか「何か裏で不正な操作をしているのか」の見分けがつきにくくなりそうですね。
ゆりこ:まさにそこが「光と影」なんです。実際、マクロプログラムを使って再生回数を機械的に操作し、特定の曲の順位を操作する「音源サジェギ」という行為も、長年グレーなうわさとして業界内でささやかれてきました。いわゆるブローカーを使った、組織的な不正行為です。最近、日本でもテレビ番組で、組織的にSNSのいいね数やリポスト数を増やす裏ビジネスが報道されていましたが、あれに近い状態だと思ってください。
矢野:実際に韓国で不正行為が発覚したり、摘発されたりした例はあるんですか?
ゆりこ:実は実際に見つかって処罰を受けた例は少ないです。2025年に、あるソロ歌手の元所属事務所の代表ら11人が、大量のパソコンや不正に取得したアカウントを使ってストリーミング回数を機械的に操作したとして、ソウル中央地裁で有罪判決を受けました。正直なところ、氷山の一角でしょうね。こうした問題を受けて、韓国の主要音楽サイトはチャートの集計方法を変更するなど改善を図っています。
矢野:「本当に聞かれている数字」と「表に出る数字」がかい離していると、業界側も気付いていたということですね。
ゆりこ:ファンの懸命な応援行為と、会社ぐるみの違法行為は全くの別物なのですが、それだけ数字を作るのに必死であるということは間違いないでしょう。そしてどうにか「リアルなデータ」を反映させようと、あの手この手で対策を練るチャート運営会社。放っておくと信用問題に関わりますからね。
新人には目標、中堅には通過点、ベテランには絆の再確認——変化する「1位」の意味
矢野:ここまでの話を聞いていると「1位」を巡る駆け引きも、それを支えるファンの熱量も、想像以上にシビアだなと感じます。ファンが必死になる理由は、推しが事務所に見捨てられないように、次のカムバックの予算をつけてもらうための成果を、自分たちの手でプレゼントしようという構造があるからなのだと理解しました。
ゆりこ:しかもこの「1位」の意味合いが、世代によって変わってくるんですよね。新人にとっては1位とは「目標」そのもの。でも中堅グループになると、「まだ旬である証拠」でいわば通過点。そしてベテランになると、また意味合いが変わって「ファンとの絆を再確認するモチベーション」になっていく。
矢野:「1位」を取る目的が、グループの置かれている状況によってこんなにも異なるのですね。
ゆりこ:そして言わずもがなですが、音楽番組や音源チャートで1位を取らなくても、アーティスト活動を続けている韓国の歌手は大勢います。しかし、大人数かつ運営費用もかかるアイドルグループに関しては、いまだにキャリアや存続に関わるものだという認識です。
矢野:「もう韓国で1位とか関係ない」と言えるグループは、それまでに1位を何度も取っている。圧倒的な実績がないと、1位を追い続けるループから抜け出せないというのは、なかなか皮肉な現実です。その反面、ファンの経済的・精神的な負担の大きさも気になります。
ゆりこ:私も個人のファンが何かを大きく犠牲にしたり、無理したりすることには警鐘を鳴らしたいです。純粋に楽しめているうちは、外野が口出しするのは無粋ですが……。
矢野:「1位」はあらゆる立場の人が見てもその結果の大きさや意味などが分かりやすい定量的な指標の1つですよね。ただ、当たり前ですが「1位」は1つしかありません。だからこそ価値があるという意見も十分理解できるのですが、たった1つのものをずっと追求し続けるのはとても難しい。そして、1位以外は無価値というわけでも決してないはずです。無理して短期的な目標を達成したとしても、それが続かなければ後々しんどい……。
ゆりこ:瞬発的に頑張って作る「1位」も大事。何よりそういう時って、ファンとしてはとても楽しいんですよ。アドレナリン出まくりますし。でも長年、いろんなグループをファンとしても運営側としても見てきて思うのは、一部のファンだけが無理をして数字を作ろうとするグループは結局のところ、いつかは限界が来るということです。
矢野:自分のペースで長く応援できる状態を保つことが、結果的にはグループを一番支えることになる。「1位獲得」というシビアな戦いの裏側に、地味だけど大事な真実があるのかもしれません。
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K-POPゆりこ:音楽・エンタメライター。雑誌編集者を経た後、渡韓し1年半のソウル生活を送る。帰国後は、K-POPや韓国カルチャーについて書いたりしゃべったりする「韓国エンタメウオッチャー」として、雑誌やWebメディアなどでの執筆活動や、韓国エンタメ情報ラジオ番組『ぴあ presents K-Monday Spotlight』(TOKYO FM)でパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。



