なぜSAPIXには「自習室」がないのか?
一方で、自習室は依然としてありません。なぜSAPIXには自習室がないのか。SAPIXは校舎数が少なく、1校舎あたりの生徒数が多いことで知られています。1校舎・1学年で何百人という規模になるケースもあります。
生徒数が多ければクラス数も増え、授業で使用する教室が常に埋まっている状態になるため、空き教室が生まれにくいのです。全生徒に自習スペースを確保することは、物理的に困難です。
また、自習室の管理には相応の人手が必要です。放置すると小学生たちは遊び始めてしまいます。カメラで監視するとしても、その映像を確認するスタッフが求められます。
「ノートを回収してチェックする」という講師の努力でどうにかなることは対応できても、スペースの確保と常駐スタッフが必要な「自習室の常設」は、SAPIXのビジネスモデルの構造上、そう簡単には踏み切れないのが実情です。
「オンライン自習室」に潜む小学生ならではの限界
SAPIXが校舎の自習室の代わりに用意したのが、オンライン自習室です。スマートフォンのカメラを子どもに向けてログインすると、一定時間ごとに塾のスタッフが声をかける仕組みです。とはいえ、小学生が1人で自宅にいながら、スマートフォンやタブレットからオンライン自習室に接続し、集中して学習し続けることは容易ではありません。
共働き家庭では、子どもが下校しても保護者がいないことが多い。そうした環境で、子どもが自主的に机に向かい、オンライン自習室にログインして学習を続けられるでしょうか。
そもそも、言われなくても机に向かえるタイプの子どもであれば、オンライン自習室というツールがなくても、ある程度は自律的に学習できてしまいます。
実はこのオンライン自習室、コロナ禍に早稲田アカデミーも実施していましたが、比較的短期間で終了しています。利用者が伸びなかったことが理由と考えられます。
リアルな自習室で生徒を惹きつけるノウハウを持つ早稲田アカデミーでさえ、オンラインで小学生を集中させることの難しさから撤退しているのです。
高校生がオンラインでつながりながら学習するスタイルは広まりつつありますが、まだ幼い小学生に同じことを求めるのは難しいようです。
家庭環境の変化に塾はどう応えるか
今回は、共働き家庭の増加に対するSAPIXの取り組みについて取り上げました。自習室と随時の質問対応が整備されていない現状、生徒獲得への影響、そしてオンライン自習室の実効性——これらの課題について考えてみました。次回は、中学受験塾に求められるものの変化について、もう1つの視点から見ていきます。
この記事の執筆者:
四谷 代々



