昭和天皇「お米の料理でした」。外交官が90年前の記憶を追跡し、判明した“幻のメニュー”の正体

昭和天皇とスペイン王室の交流をめぐる、知られざるエピソード。90年前の昼食会の記憶を手がかりに、一人の外交官の執念が、“幻のメニュー”を解明へと導きました。皇室の記憶がつないだ両国の関係をひも解きます。(画像出典:ロイター/アフロ)

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見つかった90年前のメニュー

フランス語で書かれたメニューで、日本側が保存資料としてメニューの上部につけた注記には「西班牙國大使館ニ於ケル御會食ノ御献立」とある。

・卵、プリンセス風
・オマール海老のアメリカ風、カレー味のお米
・骨付き仔羊、グリンピースとジャガイモのシャトー
・肥育鶏の冷製、五月のバラのジュレとアイーダ風サラダ
・チョコレートの冷たいスフレ
・チェスターケーキ

おそらくスペインの公邸料理人が作った料理と思われるが、興味深いメニューである。

デザートまで入れて6皿で、肉料理が仔羊と鶏の2種類出されているのはいかにも戦前のメニューだ。今日、2種類の肉料理が同一メニューに載ることはない。

前菜についてだが、プリンセス風という名前がつけられた料理にはアスパラガスの穂先とトリュフの薄切りが用いられるのが特徴だ。ホワイトアスパラガスに半熟卵の黄身をからませながら食べる一品だと思われる。6月はフランスではホワイトアスパラガスの季節である。おそらく香りづけにトリュフの薄切りが散らされていただろう。

昭和天皇が語ったお米の料理は、次のオマール海老の付け合わせで出されている。

米をカレー味でバターで炒めたもので、吉川氏が予想した通りパエリアではなかった。〈オマール海老のアメリカ風〉はトマト、エシャロット、ニンニク、パセリなどをバターで炒め、白ワインとコニャックを注いでソースとして、オマール海老にかけた料理だ。

〈ジャガイモのシャトー〉は角切りにしたジャガイモをバターで炒めたもので、仔羊の付け合わせ。肥育鶏の料理は、おそらくバラの香りのトロリとしたジュレをかけたものだろう。

デザートも2種類。最後は英国のチェスターケーキ。アルフォンソ一三世の王妃はビクトリア英女王の孫娘で、英国との関係が深い。そのあたりを忖度したキニョネス大使が気を利かせて、公邸料理人に指示したのだろうか。

なおメニューには残念ながら飲み物が記されていないが、シャンパンと白赤のワインだったであろうことは想像に難くない。

交流の歴史が明らかにしたもの

吉川氏はメニューが明らかになった2012年6月、外交問題に関するスペインの雑誌に、裕仁皇太子とアルフォンソ一三世の昼食会のエピソードを6ページにわたって紹介。

これはスペインで2015年に発行された『20~21世紀におけるスペイン対外政策史』(2巻本)の西日関係史の中でも引用された。

『昭和天皇実録』の第3巻でも、昼食会の模様は24行にわたって詳しく紹介されている。

吉川氏が解明した内容が多く盛り込まれていることは言うまでもない。なお同氏は昼食会のメニューのコピーを先の両陛下と皇太子に渡したという。

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この書籍の執筆者:西川 恵 プロフィール
1947(昭和22)年長崎県生まれ。71年毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマの各支局、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。仏国家功労勲章シュヴァリエ受章。『エリゼ宮の食卓』(新潮社)でサントリー学芸賞。『ワインと外交』(同)、『知られざる皇室外交』(KADOKAWA)など著書多数。

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