「父がやり残した責任を、自分が」——上皇さまはなぜ“慰霊の旅”を続けたのか。昭和天皇への思い

「平和国家・日本」はどのように形づくられてきたのか。天皇・皇后両陛下が続けてきた「慰霊の旅」に焦点を当て、「すべての犠牲者」への祈りと、その行動が国内外に与えた意味を読み解きます。(画像出典:ロイター/アフロ)

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慰霊の旅がもたらしたもの

その天皇が即位後、皇后とともに、過去の反省を込めて慰霊の旅を始め、ときに日本人戦没者だけでなく、全犠牲者に追悼を捧げてきたことは、平和国家・日本のイメージを補強してきた。

歴史問題をかかえた中国や韓国、北朝鮮は別にして、平成になり東南アジアの国々で日本の軍国主義復活の懸念が表立って議論されたことを私は寡聞にして知らない。

安全保障問題では日本は中国の力の威圧に対応する形で、集団的自衛権を一部容認する安全保障法制を成立させた。

安倍政権の安全保障政策強化の行き方に対して、両陛下の慰霊の旅やお言葉はバランサーとなり、東南アジアの国々にある種の安心感を醸成してきたと思われる。

また慰霊の旅を含めた両陛下の自然体の振る舞いも日本の良きイメージ定着に寄与したと思う。日本はバブルの終焉と平成の時代の始まりが重なり、虚栄を張らず、分相応に生き、モノよりもコトに充足を見出す社会へと移行した。

両陛下のたたずまいはこの日本のありようと共鳴してきた。外国から見ると、平和国家・日本のイメージは昭和の時代よりも平成になってより明確になったと言えるだろう。

残された「慰霊の課題」とは

ただ、一つ付け加えておかねばならないのは、慰霊の非対称性の問題を日本人がまだ解決していないことである。

両陛下は外国訪問をすると、その国の戦没者を慰霊するが、外国の元首が来日した時、相互主義になっているはずの慰霊が行われない。A級戦犯が合祀されている靖国神社に外国の首脳は行かないからだ。

もし慰霊のための施設が日本に整っており、その前で外国の首脳が献花し、深々と頭を下げるなら、遺族のわだかまりは軽くなり、戦後世代の日本人も感じるところがあるはずだ。その機会を日本人はもてていない。

外国の首脳が慰霊できるようにするには、いまのところ3通りの選択肢がある。

靖国神社のA級戦犯の合祀取り下げ、または国立施設の建設、または暫定的に千鳥ケ淵戦没者墓苑を代替施設とする——である。

いずれを選ぶにせよ、慰霊の非対称性を日本人は自分たちで解決しなければならない。天皇だけに慰霊の問題を任せておいていいはずはない。

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この書籍の執筆者:西川 恵 プロフィール
1947(昭和22)年長崎県生まれ。71年毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマの各支局、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。仏国家功労勲章シュヴァリエ受章。『エリゼ宮の食卓』(新潮社)でサントリー学芸賞。『ワインと外交』(同)、『知られざる皇室外交』(KADOKAWA)など著書多数。

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