ヒナタカの雑食系映画論 第203回

『エディントンへようこそ』を見る前に知りたい5つのこと。『ズートピア2』へと「接続」する理由

『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作『エディントンへようこそ』はとても面白い「炎上スリラー」でした。実は『ズートピア2』に似ている要素も含め、見る前に知ってほしい5つのポイントを解説しましょう。(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

1:「自分は正しい」と思っている人の物語にゾッとする

物語の舞台はコロナ禍でロックダウン中の小さな町・エディントン。保安官が現市長と対立した勢いで市長の選挙戦へ立候補し、いつしか町には疑惑と論争と憤怒が渦を巻き、破滅(?)へと突き進んでいく、というのが基本的なプロットです。
対立の構図は「マスクをしない派/する派」というシンプルなものですが、保安官がぶち当たる問題には「市民たちがSNSのフェイクニュースやうわさ話に煽られる」ほかにも、「妻が陰謀論にハマっていく(しかも同居する母も陰謀論者)」もあります。おかげで保安官の精神は揺さぶられるどころか崩壊寸前、ついには「完全に間違った行動」に出てしまうのです。

その完全に間違った行動に至るまでの心理を単純化するのであれば「自分だけは正しくて、ほかのやつらは間違っている!」というもの。保安官が家族や周囲から見放され孤立していくのは、そういう独善的な態度こそが原因だと思えるのですが、どうやら彼はそのことに気付いていません。だからこそ、嫌悪を増大させ、さらに攻撃的または排他的になってしまう悪循環があります。
エディントン
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「『正しいのは自分だけ』だと思っている危うさ」は、主人公である保安官だけとも言い切れません。

現市長はIT企業の誘致で町を救えると信じきり、妻はカルト集団の教祖を盲目的に崇拝し、市民たちはSNSの言説を真実だと思い込む……とそれぞれの立場を冷静に見れば、彼らもまた危ういところがあります。「自分もこういう立場に近いかもしれない」と想像することにも面白さがあるし、良い意味でゾッとできる作品なのです。
エディントン
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それでも物語の前半は緊張状態、というより「ほぼ何も起こらない」状態が続くのですが、ある出来事をきっかけに、急激に「ドライブ」していく感覚も本作の見どころでしょう。アクションサスペンスとしても面白いですし、「えっ!? こんなことになるの!?」な意外性や先の展開の読めなさも、楽しんでほしいです。

2:豪華キャストによる「こういう人はいる」な実在感

いずれのキャラクターも極端でありながら「こういう人はいるな」と思える実在感があるのは、やはり豪華キャストの力。

『ボーはおそれている』に続いて主演を務めるホアキン・フェニックスの精神が崩壊していく様はおかしくも悲哀があります。『ファンタスティック 4:ファースト・ステップ』と同様に理知的だからこその弱点も垣間見えるペドロ・パスカルとの、文字通りの「対決」は大きな見どころでしょう。
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フェニックスとパスカルは、実際にニューメキシコを旅して役の手がかりをつかんだのだとか。フェニックスは「地元の保安官や役人たちと話して、彼らの物の見方を知ることができて役に立ったよ」と振り返り、パスカルは「このキャラクターのバカげてて恐ろしく悲しくタフな側面にフォーカスして、ごく普通の共感できる男という印象を与えるように演じた」と語っていたりもするのです。

さらには、『エルヴィス』『デューン 砂の惑星 PART2』でも絶賛を浴びたオースティン・バトラーが、出演時間は短いものの、「惹かれてしまうのも分かる」カルト集団の教祖としてインパクトを残していました。
エディントン
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さらには『ラ・ラ・ランド』『哀れなるものたち』エマ・ストーン『憐れみの3章』に続いてカルトにハマってしまう役を完璧に体現。ちなみにエマ・ストーンは、2026年2月13日に日本公開予定の『ブゴニア』で「陰謀論者に拉致されるカリスマ経営者」を演じているとのこと。そちらにも注目です。
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極端ではあるけれど「リアル」を反映している
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