ヒナタカの雑食系映画論 第203回

『エディントンへようこそ』を見る前に知りたい5つのこと。『ズートピア2』へと「接続」する理由

『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作『エディントンへようこそ』はとても面白い「炎上スリラー」でした。実は『ズートピア2』に似ている要素も含め、見る前に知ってほしい5つのポイントを解説しましょう。(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

3:極端ではあるけれど「リアル」を反映している

本作は架空の町を舞台にしたフィクションですが、現実のコロナ禍の不安や混乱が反映されているほかにも「社会問題」を照射しています。
エディントン
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実はアリ・アスター監督は、『ヘレディタリー/継承』よりも前から現代西部劇の脚本を執筆していたのですが、世界がコロナ禍へ突入し、さらに2020年5月にジョージ・フロイドの殺害事件が起こったからこそ、脚本のアイデアを改めて考え直し、「起きている出来事を利用することが正しい」思ったのだそうです。

さらに、『ボーはおそれている』を撮り終えた後に、アスター監督は青春時代を過ごしたニューメキシコへ戻り、車で南西部を巡ったそうです。その旅では「この地では先住民族が独自の法執行機関と司法制度を持ち、彼らがそのほかの人種とはまったく異なる世界線で暮らしていること」「いくつもの人種やコミュニティがこの国では共に暮らし、分断と緊張感が確実に存在すること」などに改めて気付いたのだとか。
エディントン
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『エディントンへようこそ』は、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動を引き起こすきっかけになった痛ましい事件であるジョージ・フロイドの殺害事件を参照しつつも、アスター監督の旅を通じて物語の舞台とインスピレーションを得たからこそ、複雑な物語になったとみていいでしょう。

4:不条理な現実の問題を冷徹に見ている

前述してきた要素をまとめると、現実の問題を面白おかしく茶化しているだけではないか? と思う人もいるかもしれませんが、実際のアリ・アスター監督は「間違えないでほしい。今の状況を面白いとは思ってない。すべてが不条理だ」と断言しています。
エディントン
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その意図は「誰かを悪者として描くことも誰かを称賛することもなく、僕らが暮らす国のように感じられる映画を作りたかった」ことにもあるのだとか。

さらに、「この映画を無理やりに要約するとしたら、小さな町にデータセンターが建設される物語である」と語りつつ、以下のような痛烈な問題提起もしています。

巨大テクノロジー企業と資本家がすべてを掌握し、人々は政治的な争いに魅了される。新型コロナウイルスの流行以降、さらに悪化し、崩壊寸前の社会システムの中で僕らは生きざるを得ない状況だ。その上、僕らはシステムを変えるための手段を奪われている。
データと情報の管理は権力者の特権で、人々が疑念や怒りを権力者ではなく隣人に向けるなら、彼らの特権はさらに強化されるだろう。僕たちが権力の暴走に対抗する力になることができる、という民主主義の考え方は、パンデミックによって完全に終わってしまったのかもしれない。

この言葉からも、やはり劇中の現市長が絶対的に正しい存在とは言い切れないと分かります。しかも、今の現実のアメリカでは、AIデータセンターの建設による環境問題が、政治的な争点に発展しています。

さらに、劇中のAIデータセンターの名前「SolidGoldMagikarp」は、ChatGPTに入力すると意味不明な回答を返してしまう言葉だそうで、物語がカオスな状況へと進行する様とリンクしていると言えます。
エディントン
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本作には、世界の問題を単純化しないアスター監督の誠実さ、あるいは誰のことも英雄視をしないような冷徹な視点、あるいは世界がどうしようもない状況に突き進んでいることへの「警鐘」も同居しているようにも思えます。その結果として歪(ゆが)んだ思想や行動が入り混じる内容になっていますが、それこそが本作の魅力です。
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『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『ズートピア2』を連想した理由
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