独創性が高いのに、なぜか共感してしまうワケ
矢野:まさにその感覚です。K-POPグループといえば、デビュー時から明確なコンセプトを持ってデビューするケースがほとんどですよね。鋭く、深く体現していけばいくほど非現実性が増して、ファンの没入感も高まっていく。でも同時に、コンセプトをとがらせればとがらせるほど大衆性を失うリスクもありますよね。
ゆりこ:とがったコンセプトは狭く深く支持される方向に流れやすい、という面はあると思います。かといって広く浅くを狙っても、他グループとの差別化ができず、大衆受けはおろか、熱烈なファンダム形成もかなわなくなる。難しい部分です。
矢野:特にTXTは、あのBTSの次のグループとして出てきたグループ。いかに「他と差別化するか」と「大衆性を担保するか」は命題だったはずです。両方を攻略するのは結構な無理ゲーかもしません。ただ、それをTXTはやってみせた。独特なコンセプトを保ちながらも、血の通った温かみやファンとの近い距離感を両立させているんです。
ゆりこ:その視点、とても面白いです。K-POPの“コンセプト”ってインパクトを重視するあまり奇抜になり過ぎてしまったり、反対に既視感を覚えたりするケースもあります。一方でTXTは最初から「色濃いファンタジー性」を持ちながらも、「少年たちの成長」という誰にでも共感できる普遍的な物語からスタートしているゆえ、キャリアを重ねても多少冒険しても軸がブレない。
矢野:TXTはデビュー当初、どうしても「BTSの弟分」という枕詞がついていましたよね。もちろん期待や重圧も大きかったと思うんです。でも今ではもう、その言葉が不要なくらいに存在感を確立しています。僕にとってTXTは替えの効かないグループです。
ゆりこ:そうそう、もはや弟感は皆無ですよね。あえて言うならば……TXTはBTSというより、「SHINeeの系譜」だと感じる部分のほうが多いです。王者の弟としてどう別の世界を開拓するか、という難しい宿命を持ちながら、それゆえに確固たる色を持てた稀有な存在。
矢野:「SHINeeの系譜」は僕も感じています。東方神起が熱狂的な支持を集めていた頃にデビューした彼らには、どこかBTSとTXTの関係に似たものがあるような……。SHINeeはデビュー曲『Replay』で、10代のK-POPグループとは思えないクールなグルーヴ感を見せ、その後さまざまな楽曲などを通して、“SHINeeならでは”の魅力や時代の空気感をつくっていきました。そしてそのSHINee独自の魅力が「SHINeeイズム」として、いろいろなグループに受け継がれているのを感じると、ゆりこさんもおっしゃっていましたよね。
また、TXTのアルバムは「チャプター」で区切られていて、物語の連続性がありますよね。5人が主人公となり、青春、喜び、恐れ、自己の探求などを経験しながら成長していく。アルバムを重ねるごとに、彼ら自身の年齢や心境とも重なっていって、まるでフィクションとノンフィクションが並行して進んでいるように感じます。僕が知らないだけで他のグループにも同様の試みはあったのかもしれませんが、これほどデビューから今まで一貫して“コンセプトとリアル”をつないできたのはTXTぐらいだと思うのです。
ゆりこ:確かにファンからすると、アルバムを追うことがそのまま彼らの青春を共に歩む体験になっているのかもしれません。音楽を聞きながら、応援しながら、彼らと一緒に成長しているという実感が湧く。他のグループにも共通する部分ではありますが、そのリアルな喜びが一層強いのがTXTなのかもしれません。



