映画『フロントライン』が『シン・ゴジラ』を想起させる理由。見る前に知ってほしい5つのこと

6月13日より公開された映画『フロントライン』が、絶賛の声も納得する素晴らしい内容でした。『シン・ゴジラ』を想起させる理由をはじめ、見る前に知ってほしい5つのことを解説しましょう。(※画像出典:(C)2025「フロントライン」製作委員会)

フロントライン
『フロントライン』 絶賛上映中 配給:ワーナー・ブラザース映画 (C)2025「フロントライン」製作委員会
2025年6月13日より映画『フロントライン』が公開中。3日間で興行収入3億4700万円というヒットスタートを切り、評価は絶賛の声が多く、レビューサイトでは映画.comで5点満点で4.2点、Filmarksでは4.1点というハイスコア(6月中旬現在)となっています。

「実話に基づく物語」ではありますが、筆者が強く連想したのは、意外にも2016年公開のフィクション作品『シン・ゴジラ』でした。その理由と共に、本作が描いている問題は決して約5年前の出来事に限らないこと、実はエンターテインメント性高い内容であることも含めて、ネタバレにならない範囲で解説しましょう。
 

1:『シン・ゴジラ』を強く連想した理由

『フロントライン』から『シン・ゴジラ』を連想した最大の理由は、未曾有(みぞう)の事態に対しての人々の思惑や行動が「淡々」と、そして「リアル」に描かれていることです。

登場人物のほとんどは冷静に対処していながら、不安や激情を隠しているようで、だからこそ誠実な人たちであることも伝わり、応援したくなる——そんな魅力が共通しているのも特徴です。
フロントライン
(C)2025「フロントライン」製作委員会
『シン・ゴジラ』は5年前に発生した東日本大震災の影響を強く感じられる、ゴジラという怪獣を災害のメタファーとして読み解ける内容でした。くしくも『フロントライン』もまた、2020年2月に起きた「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナ集団感染から、ちょうど5年後のタイミングで公開されています。

2025年現在、少しずつ記憶が薄れつつある「あの時」の出来事を、​​​​​​「5年後の今」に思い返すという意義もあります。かつ、この『フロントライン』を通して、当時のニュースや記事だけでは知りえなかった、「事態の最前線(フロントライン)で戦う人たち」の姿を追うことができるという点も、本作の大きな魅力です。
フロントライン
(C)2025「フロントライン」製作委員会
『シン・ゴジラ』の魅力を「実話ベースで打ち出した」のが、この『フロントライン』という言い方もできるでしょう。

2:派手な展開がなくてもエンタメ性がある理由

この『フロントライン』には、どうしても避けられない「制約」があります。

それは、「災害パニック映画のような派手な演出ができない」ということ。ウイルスは目に見える脅威ではありませんし、実話ベースであるからこそ勝手な改変もできません。例えば、燃え盛る炎や押し寄せる水といった“画(え)で見せるハラハラドキドキのスリル”を提供しにくいわけです。

それでも、本作がエンターテインメント性を失っていないのは、「困難に立ち向かう意志」を分かりやすく描いているからでしょう。
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(C)2025「フロントライン」製作委員会
そもそも、劇中の医療ボランティア的組織であるDMAT(ディーマット)は、地震や洪水などの災害対応のスペシャリストではあるものの、ウイルスについては専門外。しかし、当時の日本には大規模なウイルス対応を専門とする機関自体が存在しなかったため、今回の事態に「急きょ対応するしかなかった」のです。

特に実質的な主人公であるDMATの指揮官は、下世話な言い方をしてしまえば「無茶振り」をされており、だからこそ共感もしやすいというわけです。それでも、彼は旧知の実働部隊の男に声をかけ、医政局医事課の役人と衝突しながらも協力をあおぎ、ありとあらゆる対応をしていきます。

既存のルールが通用しないどころか、手続きが事態を解決する「足かせ」になってしまう場面もあり、それをどう覆していくか、いかにして論理的に最善の手を尽くしていくかが、興味深く見られるようになっているのです。

また、もちろん実際にあった出来事を描くに当たってのリアリズムも追求しており、それは約半年をかけて、DMAT、厚労省、自衛隊、消防署、警察、そしてクルーと乗客らに話を聞いたという、綿密な取材のたまもの。当時はコロナ禍のためにリモートでの取材となったものの、その分、全国に広がる関係者への取材ができたため、最終的に取材メモは300ページを超える厚さになっていたのだとか。
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(C)2025「フロントライン」製作委員会
おかげで「情報量がみっちりと詰まっている」タイプの作品にもなっているため、劇場の集中できる環境で見ることを強くおすすめします。
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豪華俳優による魅力的でクセのあるキャラクターたち
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