
「実話に基づく物語」ではありますが、筆者が強く連想したのは、意外にも2016年公開のフィクション作品『シン・ゴジラ』でした。その理由と共に、本作が描いている問題は決して約5年前の出来事に限らないこと、実はエンターテインメント性高い内容であることも含めて、ネタバレにならない範囲で解説しましょう。
1:『シン・ゴジラ』を強く連想した理由
『フロントライン』から『シン・ゴジラ』を連想した最大の理由は、未曾有(みぞう)の事態に対しての人々の思惑や行動が「淡々」と、そして「リアル」に描かれていることです。登場人物のほとんどは冷静に対処していながら、不安や激情を隠しているようで、だからこそ誠実な人たちであることも伝わり、応援したくなる——そんな魅力が共通しているのも特徴です。

2025年現在、少しずつ記憶が薄れつつある「あの時」の出来事を、「5年後の今」に思い返すという意義もあります。かつ、この『フロントライン』を通して、当時のニュースや記事だけでは知りえなかった、「事態の最前線(フロントライン)で戦う人たち」の姿を追うことができるという点も、本作の大きな魅力です。

2:派手な展開がなくてもエンタメ性がある理由
この『フロントライン』には、どうしても避けられない「制約」があります。それは、「災害パニック映画のような派手な演出ができない」ということ。ウイルスは目に見える脅威ではありませんし、実話ベースであるからこそ勝手な改変もできません。例えば、燃え盛る炎や押し寄せる水といった“画(え)で見せるハラハラドキドキのスリル”を提供しにくいわけです。
それでも、本作がエンターテインメント性を失っていないのは、「困難に立ち向かう意志」を分かりやすく描いているからでしょう。

特に実質的な主人公であるDMATの指揮官は、下世話な言い方をしてしまえば「無茶振り」をされており、だからこそ共感もしやすいというわけです。それでも、彼は旧知の実働部隊の男に声をかけ、医政局医事課の役人と衝突しながらも協力をあおぎ、ありとあらゆる対応をしていきます。
既存のルールが通用しないどころか、手続きが事態を解決する「足かせ」になってしまう場面もあり、それをどう覆していくか、いかにして論理的に最善の手を尽くしていくかが、興味深く見られるようになっているのです。
また、もちろん実際にあった出来事を描くに当たってのリアリズムも追求しており、それは約半年をかけて、DMAT、厚労省、自衛隊、消防署、警察、そしてクルーと乗客らに話を聞いたという、綿密な取材のたまもの。当時はコロナ禍のためにリモートでの取材となったものの、その分、全国に広がる関係者への取材ができたため、最終的に取材メモは300ページを超える厚さになっていたのだとか。
