
【前回の記事「K-POP『冬の時代』にEXOが韓国音楽界のトップに立てた理由」(#47)はこちら】
EXOがK-POP業界へ与えた影響

K-POPゆりこ(以下、ゆりこ):これまで以上に私の個人的見解が多めの回になりそうですが、温かい目でお付き合いください。
矢野:具体的にEXOがいたから「K-POPがこう変わった」というものは、何かありますか?
ゆりこ:「多国籍メンバーシップ」「コンセプトの多様化」「ティザーと考察文化」など、いくつか思い当たります。どれもEXOがゼロから生み出したOR始めたというものではありませんが、広げた、強化した、定着させたと言ってもよいと思います。
矢野:なるほど。ではまず「多国籍メンバーシップ」からいきましょうか。レイさん以外のメンバーはすでに脱退済みですが、かつて中華系のメンバーが計4人もいたんですよね。
ゆりこ:はい。EXO以前も韓国籍以外のメンバーが所属するグループはありました。ただ、アメリカや日本で生まれ育った韓国系の人が多かった印象です。EXOの先輩に当たるSUPER JUNIORにも初期の頃はハンギョンさんという中国人メンバーが在籍(2009年に脱退)し、“SUPER JUNIOR−M”という中国市場向けのプロジェクトユニットもあり、中国人のチョウミさん、中国系カナダ人であるヘンリーさん(2018年に独立)が活動していました。ただ、メンバーの半数以上が中国系で占められた“EXO-M”の登場は思い切った挑戦だったと思います。
矢野:SMエンターテインメント(以下、SM)の創業者、イ・スマンさんは今も中国で新人アイドルの育成と準備を進めているそうですが、当時から中国市場への関心が高かったのがうかがえます。
ゆりこ:実はSMは第1世代のH.O.T.の時代から当時では珍しく北京公演を行うなど、中国でのマーケティングに注力していました。その上でEXOは本格的に大陸進出を図ったグループだと言えます。 矢野:EXO以後に中国市場にフォーカスしたグループといえばWayVがありますよね。2019年に結成され、中国を基盤に活動するNTCの派生ユニット。中国やタイ、マカオ、台湾出身メンバーから構成され、韓国人は1人もいません。母体となるNCTというグループ自体、多国籍がゆえに彼らがファンと交流する言語も中国語、英語、韓国語、日本語、タイ語など実にさまざま。
ゆりこ:WayVは現在の成功例ですよね。EXO-Mの中華戦略がどうだったかというと、瞬間風速的には大成功。一方で残念ながらグループ運営としては多くの課題を残しました。そこからの反省を生かしチューニングを経て、生まれたのが後輩のWayVだと思います。EXO-Mの崩壊を他山の石として学びを得たライバル会社も多いはずです。個人的な意見ですが、K-POPグループにおける中華系メンバーが徐々に減少傾向にあること、一方で日本人や東南アジア出身メンバーが増加しているのも、無関係ではないかもしれません。“コロンブスの卵”と言いますが、先駆者は苦労も失敗も付きものですよね。
矢野:「これをやったらいけそう」とか「あれならうまくいくはず」など一見誰でもできそうなことでも、“最初”に実践するのは本当に難しいことですよね。「どんなに天才的な考えを持っていても、実行しなければ凡人も同じ」というのは、ぼくが恩師から言われた言葉です。そして次にお話ししたいのはK-POPグループが今でも重要視する「コンセプト」について。EXO以前はそういった概念がなかったのでしょうか?