単なる予告にあらず!? ファンによる「考察文化」を定着させたEXOのティザー
ゆりこ:あとは「ティザーと考察文化」にも触れておきたいです。K-POPといえばティザー。つまり、新曲のMV本編を披露する前に「予告映像」を先出しして、関心を惹くのがテッパンのPR手法となっています。ティザー自体はBoAさんの若手時代からあるので、決して新しいものではありません。しかし、その内容や隠された意味をファンがこぞって考察し始めたのは、EXOからだったと思うのです。ちなみに彼らが正式デビューまでに公開した事前ティザーはなんと23本! かなり多いでしょう。矢野:23本! たくさんありますね。最初はカウントダウンタイマーが表示され、小出しにメンバーを紹介していく。ファンはここで初めてどんなグループなのか、どんなメンバーがいるのか知っていくわけですよね。
ゆりこ:各メンバーのダンススキルを見せるような「紹介ティザー」がある中で、時折なんとも意味深な「イメージティザー」も混ざっていたのです。それが先ほどお話ししたEXO初期の超能力設定と、壮大な物語につながるのですが、「一体これはどういうこと?」と見る人の頭に「?」が浮かぶ感じの映像です。そこから「あのシーンにはこんな意味が込められているのでは?」といったK-POPファンたちの考察がオンライン上にあふれ出しました。 矢野:全体的にグレーがかっていて、流れているピアノの音もどこか不穏な感じがします。これからハッピーなことが起こるとはとても想像できないどんよりした雰囲気です。ただ、だからこそ続きが気になる。「ねえ! 次はどうなるの!?」と。
ゆりこ:以降もEXOのティザー、MVは思わず裏を読みたくなる、ストーリーを想像したくなるものが多めです。「EXOから考察文化が始まった」とまで言ってしまうと語弊がありますが、少なからず影響はあったと思います。今でもK-POPファンにとって、ティザーやMVの考察は“楽しみ”の1つです。私もSNSでさまざまなアーティストのファンの方たちの考察を目にするたび「よくぞそこまで気付いた!」「そんな面白い解釈もあるのか」と驚いたり、「言われてみればそうかも……」と納得したりして楽しんでいます。
矢野:新しくグループなどがデビューすると決まれば、まずはティザーの公開日時を確認するのがルーティンになっているように思います。YouTubeだけではなく、X(旧Twiter)やInstagramなどさまざまなプラットフォームに配信され、あっちも見てこっちも見てと大忙しです。
ゆりこ:これは私の「考察」なのですが、EXOのデビューとSNSの急成長が重なったことも少し関連しているように感じます。YouTubeが日本語対応になったのは2007年、韓国語対応は2008年から。そして日本でTwitter(現在のX)利用者が増えたのは2011年の東日本大震災がきっかけといわれています。それ以降K-POPファンの中での情報収集、意見交換ツールとなったのは周知の事実です。EXOが世に出る直前に「映像を世界同時に無料で見られる」「個人が情報を発信、共有できる」無料ツール、グローバルなプラットフォームが準備されていたことも「EXOのティザー考察」を盛り上げた一因なのかもしれない。
矢野:確かに皆がここまでSNSを使うようになっていなかったら、「ティザー考察」は話題にならなかったかもしれませんよね。無料で閲覧できて、それを簡単にシェアできる。時代やツールなどさまざまな条件が偶然にも重なった結果とも言えるのではないでしょうか。ここまでのお話でEXOがいかにイノベーティブな存在であったかを改めて実感しました。それだけに、現在のEXOを取り巻く状況が気になります。
ゆりこ:避けては通れないところですね。次回は彼らが直面している課題や、今後の展望についてお話ししたいと思います。
<参考>
※1:Danmee 2021年12月12日「EXO『Growl』プロデューサーがメンバーに制服を着せたワケ 『擦れてない美しさがあった』」
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K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。