部活の悩みから生まれた新たな風
ヘアケアメーカーのマンダムは、学校生活における「部活ヘア」の存在に着目。高校生を中心とした学生が自己表現と部活を両立して楽しめるよう、部活生の髪型ルールを一緒に考える「どう思う?部活ヘア」なる活動を2023年5月より展開している。同社の調査によれば、入部した部活に納得できない髪型のルールや伝統がある場合、3人に1人が「辞めるもしくは他の部活への入部を検討する」と回答したという。こうした状況の改善を目指した活動の大きな柱の1つが、全国の理美容師が部活生のヘアカットを行う「部活ヘアサロン」だ。
その端緒を開いたのは、福岡・飯塚高校のサッカー部員のヘアカット・ヘアスタイリングを、2021年から一個人として始めたヌマタユウトさんの強い思いだった。
「日本のスポーツ選手はもっとカッコよくできる。そのためにも、スポーツをする子どもたちをもっとカッコよくしたい」
この思いにヌマタさんが所属する神戸発の「メリケンバーバーショップ」が共感、さらにマンダムが賛同することで、「部活ヘアサロン」の活動は地域や競技の枠を超えて、全国に広がり始めている。
メリケンバーバーショップのクリエイティブディレクターで、2020年から飯塚高校サッカー部のフィーリングコーチを務めるヌマタさんに、こうした取り組みを始めた経緯、そして将来の夢を語ってもらった。

技術を投資してカルチャーを生み出す
──そもそも、ヌマタさんがこの活動を始めるきっかけは何だったんですか?「始まりは5年ほど前ですね。メリケンバーバーショップが福岡に新店舗を出店する際に立ち上げを任された僕は、この店舗の運営を通して、今の自分を形成してくれたカルチャーに何らかの形で恩返しができないかと考えたんです。
そこで、まずは僕が高校時代にハマって、先輩たちからいろんな人生のノウハウを学んだスケートボードに目を付けたんです。お店にボードを持ってきてくれたら、僕が無料でカットする。そんな活動を始めました」
──反響はいかがでしたか?
「若いボーダーたちの間で話題になりましたよ。僕がカットという技術を投資すれば、1つのカルチャーが生まれるんだっていう感触がありましたね」
──その次のステージとしてサッカーへ?
「僕自身、小中とサッカーをやっていて、憧れはプロのサッカー選手だったんです。狭き門をくぐってプロになって、プレーで多くの人に夢を与えられる職業ってめっちゃカッコいいなって。自分はなれなかったけれど、バーバーとしてあの世界に関われるんじゃないか、スケートボードでやってきたことを、そのままサッカーにずらしてやれないかって考えたんです」
──それで飯塚高校のサッカー部に?
「いえ、最初はJリーグのサガン鳥栖にアプローチしました(笑)」
──いきなりハードルが高そうな……。
「たまたまうちのお店に、サガン鳥栖のスタッフの方が髪を切りに来ていたので、話を持ち掛けてみました。純粋にJリーガーたちをもっとカッコよくしたかったし、同時にバーバーという職業の価値も上がるんじゃないかと思ったんです。
ただ、当時はチームの成績があまりよくなくて、そんな状況で選手の髪型がどうこうと言ってもサポーターの反発を買うだけだと、クラブスタッフの人たちからも反対されてしまいました。まあ、『そんなことよりも勝てよ』ってなりますよね(苦笑)。それでいったんJリーグは諦めたんです」